真夜中の占い館で散歩
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悪魔は涙と取引する①

赤い硬貨の行方logo210×297-2

 Ⅰ

 冷たい月の明かりが好きだ。

 僅か光だが、闇の中を照らすには十分。
 それに余計な物は照らし出さない。美しいものも醜い物も。
 それが気に入っている理由のひとつでもある。
 この街が闇に包まれたのはいつからなのか誰も知らない。夜は延々と続き、朝陽が昇ることは決してなかった。
 やがて街には闇を好む生き物たちが集まった。悪魔、吸血鬼、魔獣たち
 そして人。
 この闇の街には様々な悪が集まっている。




 その日、俺は痛む頭を押さえながら目を覚ました。
 昨夜、かわいい魔女たちとはしゃぎ過ぎたようだ。おかげでひどい二日酔い。
 俺は、おぼつかない足取りで鏡の前に立つ。
「ひどいな」
 寝起きなのに既に疲れ切った顔を見て俺は思わずつぶやいた。
 窓から見た外は暗かった。いやいや、決して俺は一日寝過したわけじゃあない。
 この街には昼がない。朝も決して来ることはない。空には暗い闇と星。そして月だけが浮いていた。
 一体、どうやって、時間を知るんだって?
 時計があるだろ。それに星と月の動きで時間を決めているから問題ない。
 外に出た俺は月を見上げ、だいたいの時間を把握した後、歩きだした。
 今は午後1時ってところだな……少し遅い昼飯にはちょうどいいだろう。
 常に夜だなんて不思議な所だろ? だが、俺は夜が好きだ。だから、こんな街も悪くないと思える。
 しばらく歩くと通りが賑やかになってきた。
 俺は店が並ぶ中で一件の店に入った。
 店中は、さらに賑やかだ。悪魔やら種類の知れない魔物、獣人やらがウロウロしてやがる。
 ここは、普通の人間は迂闊に入れない場所だ。もし間違って入ってきたら、いいカモにしかならないだろう。
 え? そんな場所に入った俺は大丈夫かって?
 心配ないさ。俺は悪魔だ。

「やあ、冴えない顔だな」
 バーテンダーのドイルが俺の顔を見るなりそう言った。
「昨日、魔女の店で騒ぎ過ぎた」
「よそで遊ぶ金があるなら、ウチのツケも払ってくれよ」
「あっちもツケさ」
 俺はそう言って肩をすくめた。
「やれやれ……ああ、お前さんに客だぜ」
 呆れ顔のドイルがそう言って店内を指差した。俺はその指差す方を見るとテーブル席に座る若い女がいた。
 人間だった。
「誰だよ?」
「知らないね。見ない顔だし。それにここに来るタイプじゃないだろ」
「ああ、あれは"人間"だ」
「あんたに会いたいってよ」
 俺は、出された飲み物を一杯飲み干すと人間の女の座るテーブルに向かった。彼女は落ち着かない様子で周囲を見渡していたが、すぐに近づく俺に気づいた。
「あんたかい? 俺に頼みごとがあるってのは」
 俺は相手の返事も聞かずに前の席に座った。
「違うのかい? だったら俺はカウンターに戻って飲み直すが」
 俺が席を立とうとしたその時だ。
「ま、まって」
 彼女は口を開いた。
「人を探してくれるって聞いたから……その……」
 そう言う彼女は言葉もたどたどしく、俺の方もちゃんと見ない。
 どうやら、彼女は悪魔の姿には慣れていないらしいが、そいつは、お互い様だ。俺も人間には慣れていない。
「あんた、名前は?」
「ムーン……ムーンよ」

 MOON

 いい名だ。そいつは俺の好きな単語のひとつだった。
「パパを見つけてほしいの」
「消えちまう事に心当たりはあるのか?」
「いいえ」
 そう言って首を横に振ったムーンはとても悲しそうに見えた。
 この辺りには、魔物や悪魔の巣窟で、人間もたまに出入りする事はあるが、そういった奴らは、たいがい、雰囲気から地獄に落ちても違和感ない連中だったが目の前の娘は地獄とは縁遠い。
「わかったよ」
 俺のその言葉にムーンの表情が明るくなった。
「やるだけ、やってみる。だがひとつやってもらう事がある」
「何?」
「報酬だ」
 それならと、ムーンは袋をひとつ取り出してテーブルの上に置いた。俺はその中を覗き込んだ。
 中に入っていたのは、この辺りに流通しているフェンニル硬貨だ。こいつは魔界でも通用する。
「これは?」
「パパが残していったの。これを足しに……」
 申し分ない金額だが、今回は別のものを頂く事にした。それは悪魔の本分だった。
「その金はいらない。代わりに、こいつでいい」
 俺はそう言うと内ポケットから書類を一枚取り出すとムーンに差し出す。
 ムーンはきょとんとした顔で差し出された書類を見た。
「俺は悪魔だぜ? 金じゃなく別のもので支払いをしてもらいたいんだよ」
 ムーンは書類を受取ると書かれた文面を読もうとしたがそいつは無理だ。悪魔の文字は人間には読めない。
「お前の魂をもらいたい。そいつが条件だ」
「魂? 私の?」
 ムーンは再び、きょとんとした顔で俺を見た。
「そうだ。あんたの魂をもらう。そいつはその契約書だよ」
 少し、考える様子のムーン。
 そりゃそうだ。誰だって自分の魂を引き渡すなんてとんでもない事だ。これで、この娘もあきらめ……
「いいよ」
 ムーンの返事に俺は耳を疑った。
「契約をするわ」
「おいおい、ちょっと待てよ、お嬢さん」
「私の魂をあげるよ。ここにサインすればいいのね。何か書くものはない?」
 ムーンは、躊躇せず契約書にサインしようとしている。
 俺は焦った。何を考えてるんだ? 代償は自分の魂だぞ
「よ、よく考えた方がいいんじゃないのか?」
 俺はムーンの説得を試みた。
 が、彼女は……。
「パパが戻ってくるなら構わない」
「お前、魂が取られる意味がわかってるのか?」
「ええ」
 しっかりと頷くムーン。嘘だ。絶対わかってない。
「書くものが……そうだ、これを……」
 ムーンは、料理のソースに人差し指を漬けると、インク代わりに契約書に自分の名前を書気始めた。
「あ!」
 悪魔の契約書にトマトソースのサインがにじむ。俺は泣きたくなってきた。
「これで、契約成立ね。お願いします。パパを見つけてください」
 ムーンは深々と頭を下げた。しかし、そんなに頭を下げられても……;
「わかったよ。契約しちまったなら仕方がない。やってみる。親父さんの名前は?」
「エウロパ」
「何か分かったら連絡する」
「ありがとう」
 ムーンが初めて見せた笑顔だった。魔物や悪魔がたむろするこの店には似つかわしくない笑顔だった。
 そいつは、忌々しくも俺が仕事を受けてしまった事を実感させてくれた。

 まったく! 今日は、ツイてないぜ!
 

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