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真夜中の占い館で散歩
オリジナル小説の公開です
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ギャリー・トロット⑦(改)

 片目を撃ち抜かれた怪物クー・シーが倒れ、銃撃は終了した。
 戦闘エージェントたちは用心深く怪物の死体に近寄っていく。
「死んでるのか?」
 アサルトライフルの狙いをつけたままでラッシュが言った。
 それを聞いたリーパーはハンドガンを抜いてクー・シーの頭に2発撃った。
「おい!」
 突然の発砲に驚いたラッシュがリーパーに眉をしかめる。
「これで安心したろ?」
 そう言ってリーパーはにやりと笑った。

 銃弾の撃ち込まれた目からはオイルの様な体液が流れ出している。
 アンジェラ・ノイマン博士はさっそく死んだクー・シーの頭部の前に座り込むと傷口から肉片や体毛を採取しはじめていた。その傍ではトルートが死んだ怪物の姿を見つめていた。
「One Shot, One Kill(一撃必殺だ!)」
 その後ろからアーチャーが肩を叩く。
「どうした? 浮かない顔だな」
「ちょっとな」
「いい射撃だってのに。今度は動物愛護精神に目覚めたのか?」
「ひっかかる事があるんだよ」
「何が?」
「アーチャー、お前、この怪物を狙ったてたか?」
「はあ? そりゃ狙ってたさ。俺だけじゃなく他のやつらもな」
 トルートは、違和感を感じていた射撃の瞬間を思い出していた。
 引き金を引く瞬間、スコープ越しに先に他の弾丸が命中したように見えた。だがあまりにも一瞬の事なので事実なのか何かの思い違いなのか自信が持てずにいた。
「変な奴だぜ」
 アーチャーは、そう言って肩を竦めるとトルートの隣でへたり込む麻季を見下ろす。
「さて、お譲ちゃん。お前、一体何者なんだ?」
 アーチャーの質問に何も答えられない麻季は戸惑いながら彼を見つめた。
「黙ってないで何とか言えよ」
 その時、隊長のスヴァローグが傍にやってきた。
「何か話したか? アーチャー」
「いや、何も。ボケっとしたままですよ」
 そう言ってアーチャーは肩をすくめる。
「会社のよこした別のチームのスタッフとしても歳が若すぎるな」
「アジア系は若く見えるって言いますよ」
「確かにそうかもしれん」
 スヴァローグは中腰になると麻季の顔を覗きこんだ。
「おい、お前はどこのチームだ? いつここに来た?」
 麻季は戸惑いながらスヴァローグの言葉を聞きとっていた。
「日本人か? 中国人か? 所属は? いつここに来た?」
 まくし立てるスヴァローグに麻季は戸惑った。
「お前のボスは誰だ? 研究チームの人間なのか? それとも他社の人間か?」
 麻季はここに来た経緯を教えようと身振り手振りと日本語を交えた片言の英語で説明した。たが麻季自身も理解できてない事を話せるわけがなかった。結局、麻季の話す英語も日本語も相手に理解されていなかった。
 その様子に見かねたのかトルートが口を出す。
「なあ、隊長。彼女、英語は苦手の様だぜ」
「お前、中国語が分かるのか?」
「いや、彼女の使っているのは日本語だ。この娘は日本人だよ」
 トルートには麻季の言葉が通じていた。なぜなら彼も日本人だからだった。
「日本人? 日本の企業が我々を出し抜いたのか?」
「さあね。そんな事は言ってないみたいだったよ」
「言葉が分かるなら、お前が尋問しろ。何者か突き止めるんだ」
 スヴァローグは、そう言って立ち上がるとトルートの肩を叩いた。
「俺はこういったのは苦手なんですがね」
「命令だ。何者か聞き出せ」
「了解、隊長」
 今度は、トルートが麻季の前に片膝を着いた。
「こんにちは、お嬢さん」
 麻季は上目づかいでトルート見る。
「日本語、分かるんですか?」
「まあね」
 トルートは、麻季を安心させようとにっこりと笑う。
「なあ、なんで君は、こんなところにいるんだ?」
 トルートの口調は、表情の様にやさしかったので麻季も安心する。さっきの偉そうな大男とは大違いだ。
「さっきまで家にいた筈なの。でも気が付いたらあの建物の中にいた」
 そう言って麻季は降りてきた遺跡の様な建物を指差した。
「なんでそんな事に?」
「わからない。バイトから帰ってきて、パソコンのメールを開いただけなのに。確かに何か様子がおかしかったけどこんな事になるのか、全然意味が分かんない!」
 麻季は少し興奮気味になっていた。
「ああ、わかった。わかったよ。信じる」
 トルートが麻季をなだめる。
「本当に?」
「本当さ。何しろここは不思議な事が多いから」
「ここって何処なの?」
 トルートは黙っていた。
「ねえ、トルートさん。あなたはトルートって名前ですよね?」
 戦闘服の男たちの会話をなんとか聞きとっていた麻季はトルートの名前を言った。
「お願い」
 トルートは困った様な顔をしていたが麻季の懇願につい折れてしまう。
「俺たちは"ナイト・ワールド"って呼んでる」
 そう言ってトルートは頭を掻いた。
「なあ、これって立場が逆じゃないか? 質問してたのは俺の筈だったよな」
「あ? ああごめんなさい。いいよ。じゃあ、何か質問して」
 麻季は、あっさりとそう言った。
「まず名前からだ」
「私、三井麻季。高校二年で日本の××市に住んでる。カラオケでよく歌うのはクリスタル・ケイの曲」
「彼女なら知ってる」
「本当?」
「ユーチューブで見た。彼女の曲はいいね」
「うん、そう思う」
「よかった。こんなところに仲間がいた」
 そう言ってトルートは片目を瞑ってみせた。ちょっとふざけた仕草に麻季はつられた笑いだしそうになる。
「なあ、俺たち友達になれると思わないか?」
「え?」
 トルートは右手を差し出した。麻季もおどける様なトルートの仕草につられて、ついその手を握った。
「これで、俺たちは友達だ。安心しろ、友達の事は必ず守ってやる」
「ありがとう……」
 小さな声でそう返しながら麻季も軽く笑った。
「さっそくだが、アサキ。友達の俺に、ここに来た経緯をもう一度、ゆっくり話してくれ」
「う、うん」
 麻季は、もう一度、経緯を話した。パソコンに入っていた不審なメール。そこからの記憶がない事。その前のバイトと学校でも出来事。語学と美術とスポーツが好きな事。果ては片想いの相手の事まで。
 しばらく話を聞いていたトルートだったが有益な情報を得る事ができないでいた。要するに何の設備も装置もなく、この娘はこの空間にやってきたという事だ。そんな事で隊長は納得させられるわけがない。だが彼の性格からして容赦ない方法もとりかねない。
 さてどうしたものか……
 トルートは小さくつぶやいた。
「え?」
「いや、ありがとう、麻季。大体経緯は分かったよ。隊長に説明してみるが……納得してくれるかな」
「あの人、何だか怖いよ」
「当たってる。彼は怖い」
 スバローグは片目を瞑ってみせた後、立ち上がる。
 麻季は不安げな顔つきで歩いていくトルートを目で追った。周りにいる彼と同じく銃を抱えた他の人間はどうにも目つきが厳し過ぎて少し怖い。だがトルートは違う。同じような格好をしていてもどこか優しいし、面白い。麻季はこの中で彼だけは好きになれると思った。
 だが実は、部隊でのトルートの印象は、まったく逆のものだった。麻季はそれを知らない。様子を見ていた隊員たちの中にはトルートの見たこともない表情にに少々驚いている者もいた。
 隊長のスヴァローグもそのひとりだった。彼のところにトルートが来るといつもの様な態度で報告し始めた。
「彼女は日本の高校生だそうです。隊長? 聞いてます」
「あ? ああ、続けろ」
「気がついたらあの建物の中にいたと言ってます。後は、何もわからないそうです。他に有益な情報も持っていませんでした」
 そう言って、トルートは背後に建つ遺跡らしき建物を指差した。
「ふざけた話だ」
「ええ。ですが、あの娘の言葉は多分本当の事ですよ。嘘にしてはなんというか……」
 トルートは少し言葉を選ぶ。
「出来が良くない」
 

 二百メートルほど離れた瓦礫の山の上からチームを見下ろす者がいた。
 彼はスコープ越しに魔獣クー・シーが動かないのを確認するとライフルを下した。
 戦闘に慣れた人間の集まりであるはずのガート・ドッグスの隊員の中で誰もクー・シーを狙撃した彼の存在に気がついていなかった。
 彼は再びナイトビジョンスコープに眼を合わせる。
 スコープの中には不安そうに辺りを見渡す麻季の姿が映っていた。


 
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ギャリー・トロット⑧(改)

2、闇の中の遺跡

 第二次世界大戦中、アメリカ ペンシルベニア州フィラデルフィアの軍港である実験が行われる。
 実験の目的は特殊な磁場発生装置を使いレーダーから対象物を消すというものだった。
 米海軍駆逐艦エルドリッジは装置発動後その姿がレーダー上から消える事に成功する。しかし、実験は思わぬ結末を迎えた。レーダー上から消えた直後、エルドリッジの姿は緑色の光に包まれてしまったのだ。
 そしてついには実験を見守っていた兵士たちの目の前からも消えてしまい、次に駆逐艦エルドリッジが姿を現したのはフィアデルフィアではなく、遠く離れたノーフォクであった。
 1943年10月28日の出来事である。



 ――現代
 7月4日PM10:40 異空間"ナイトワールド"

 リーパーは目の前の建造物を見上げて思った。
 これを造ったのは誰だ?
 正確な立方体で切り出した石材が見事に組み上げられている。これを造った連中は、計測と建築の技術をそれなりに持っていたに違いない。周囲を見渡しても周りは瓦礫ばかりで切り出せる石もないからどこからか運んできたのだろうが、それなりの労力もあったはずだろう。
 リーパーは建造物の出入り口を見てある事に気がついた。
 高さは3メートルを超えている。3.5か6といったところか。幅も2メートル弱だ。随分とでかい。
 もしかしたら、これを作った連中は、かなり大きな骨格を持っていたのかも。つまり建造したのは、人間ではないかもしれない。
 リーパーは地べたに倒れる怪物クー・シーの死体を見た。死体の形相からは、ともても人間並みの知能があると思えない。
 リーパーの想像はさらに膨れ上がっていった。
 いや、やめておこう。そいつは俺たちの知ったこっちゃない。今は、任務に集中するべきだ。
 リーパーは、周囲の警戒に戻ることにした。ただもうひとつ思う事があるとしたら……
「主よ。我らを御守り下さい。死の影が我らに近づかぬように」
 彼はそう呟いた。

 アンジェラ・ノイマン博士はアーチャーを倒れたクー・シーの横に立たせた。
「この辺でいいかい? 博士」
 クー・シーの足元辺りに立ったアーチャーは博士に手を振る。
「ええ、いいわ。そのまま立っていて」
 アンジェラは、カメラでそれを撮るとアーチャーの画像をノートパソコンに転送した。モデルになったアーチャーは画面を覗き込む。
「どうだい? 記念写真のデキは。モデルが良いから最高だろ」
「ええ、いい感じよ。あなた、身長は?」
「なんだって?」
「背の高さよ」
「183だ」
「183と……」
 ノイマンは数字を打ち込んだ後、画像上のアーチャーの姿を切り取って倒れたクー・シーの身体に並列に並べた。
 にやけたアーチャーの姿が切り絵の様に怪物の横に並べられるのは随分、滑稽な姿だ。
「何してんの?」
「計測器具を持ってきてなかったから代わりに、これでクー・シーの全長を測ったの。このクー・シーは、ミスター・アーチャーの1.56倍……約286センチ。大物ね」
 同じくアンジェラの調査に興味を持ったリトル・ビーが画面のマヌケな画像を覗き込んで笑いをこらえていた。
「ククク……この怪物はこのイギリス人1.5倍分だ」
「あっちへ行け、ビー! ぶん殴るぞ」

 スヴァローグは、麻季の持っていた財布と生徒手帳を調べていた。
「本当に日本の学生なのか?」
 スヴァローグはロシア訛りの英語でそう呟いた。
「身分偽造にしても、なんで日本の高校生の身分証を使うのか……もっと気の利いた身元を偽ってもいいでしょうに」
 トルートは、財布から抜き出していたレンタル店の会員証を見ながらそう言った。
「おまえはどう思う?」
「日本でも同じような実験をしていて、それに巻き込まれたとか」
「日本が? まさか」
「ゼロ・ファイターを造った国ですよ」
 スヴァーログとトルートは衛生担当の隊員に手当てを受ける麻季を見やった。

「腰に裂傷はない。痛むのは軽い打撲だな。すぐ治るよ。顔の擦り傷は一応消毒しておこうか」
 衛生担当であるドイツ系の隊員は、そう言うと麻季の頬に消毒液を塗った。麻季には、彼の言葉がよく聞き取れてなかったが治療の説明をしてくれているのは理解できた。
「あ、ありがとう……いえ、サ、サンキュー」
「You're welcome(いいさ)」
 片言の言葉に相手は軽く笑って答えてくれた。
 その反応に麻季は、ほっとする。日本語が通じるトルートとの会話で幾分、麻季には気持ちに余裕のでてきていた。
「他に痛む場所はあるか?」
 衛生担当は、麻季が理解できるように身振り手振りとゆっくりとした口調で言う。
「手首が少し……」
 麻季は左の手首をさすってみせた。
「wrist(手首か)」
 袖をめくると手首には奇妙な痣ができていた。まるで手首を誰かに掴まれたようだ。
「おっと、これは派手だな。いや、少し酷い内出血を起こしてるだけようだ。心配ないさ」
 麻季は、覚えのない痣を見て驚いていた。
 一体、いつの間にできたのか?
 その時、麻季の頭に何故だかあの言葉が浮かんだ。

 君を待ってる……

 Eメールに書きこまれていた言葉だ。

 
 

ギャリー・トロット⑨(改)


「タイムスケジュールは?」
 スヴァローグは煙草を吸いながらノートパソコンと顔を突き合わせるアンジェラ・ノイマン博士に尋ねた。
「大丈夫。それにセンサーの方向は遺跡と同じ」
「ここが目的地ってことえすか?」
「いえ、我々の出発地点から目標までと同じラインということよ」
 この異空間"ナイトワールド"への侵入ポイントはランダムというわけではない。条件に適した位置を"入口"として使うのだ。そこから"目的地"と同じライン上にこの建造物が存在しているのは何か意味があるのかもしれなかった。
「この遺跡を調べましょう」
 スヴァローグは、遺跡を見上げた。あまり気乗りしないらしい。だがノイマン博士の現地調査への協力を出来る限り行うの契約内容に含まれている事だ。
「隊長?」
「OK、ならやりましょうか。念のため、先行は私の部下にやらせます。さっきみたいな化け物の巣かもしれないしね。安全の確認をしてから調査に移ってください。いいですか?」
「ええ」
 スヴァローグは煙草を投げ捨てると部下に指示を出し始める。
「よーし、みんな! 遺跡の中を調べるぞ」
 指揮官の命令に全員が振り向く。
「やれやれ……何か嫌な感じがする」
 ラッシュは吸ったばかりの煙草を放り投げだ。
「なんだ? またビビり屋か?」
 リーパーが茶化した。
「うるせえ。本当に嫌な感じがするんだよ」
「神に祈れ」
 そうラッシュに言ったリーパーだったが本音では、彼も少し嫌な予感がしていた。
 G36アサルトライフルの先端に付けられたフラッシュライトが点灯させられる。ダイオードの白みがかった光が遺跡の入口を照らした。
 リーパーがG36を構えて遺跡の入り口の前に立つ。その後ろをカバーする様にラッシュが立った。
 後方の一団にいた麻季はトルートの服の端を掴んだ。
「どうした?」
「あそこに入るのよした方がいい」
 この子は、怯えているのだ。無理もない。あんな化け物に追われた後だ。
 トルートは麻季の手を服から離すと安心させる為に肩をポンと叩いた。
「大丈夫。俺たちはプロだ。武器もある」
「でも」
「さっきも化け物をやっつけただろ?」
「うん……」
 麻季は、ぎこちなく頷く。
「いい子だ。さてと……」
 トルートは、その後、スヴァローグに声をかける。
「あの子はどうします?」
 スヴァローグは麻季の方を見やった。
 正体が分からない以上、放っておくわけにはいかないが、かといって連れていくには足手まといというのは分かっていた。
「トルート、お前が面倒みろ」
「はい?」
「お前が面倒みろ。博士と一緒にだ。わかったか?」
「了解」
 渋々返事をしたトルートは麻季を連れてアンジェラ・ノイマン博士の所に行った。アンジェラは麻季を見て軽くほほ笑んだ。麻季の方は軽くお辞儀をする。
 トルートは、アンジェラに声をかけた。
「博士は、この娘と一緒にいてください。俺があなたたちの前を行きます。危険な事もあるかもしれませんのでその時は、速やかに俺の指示に従ってください。いいですか?」
「分かったわ」
 アンジェラが了解する。次にトルートは麻季に声をかけた。
「アサキ。この人はアンジェラ・ノイマン博士。科学者で俺たちの雇い主だ。俺たちはこの人の調査に協力する為にやってきたんだ。今から、君がいたあの遺跡を調査する。いいかい、麻季は、この女の人の傍にいるんだ。わかった?」
「うん」
 麻季は正面のアンジェラ博士を見上げる。
「Nice to meet you.Angela Neumann(はじめまして。アンジェラ・ノイマンよ)」
 アンジェラは、この予定外の"お客"にゆっくりとした口調で声をかけた。言葉がよく分からない相手への配慮だろう。
「"あさき・みつい"です」
 麻季は日本語で答える。
「Asaki?」
「はい……いえ、Yeah!」
 二人は上手くやっていけそうのようだな。
 麻季とアンジェラの様子を確認した後、アサルトライフルを構え直し遺跡にの方に向いた。

 他の隊員たちは既に遺跡に入り始めた。
 後ろにはビーと支援火器を構えたベアがカヴァーしながら続く。
 ライトに壁が照らされると一面に描かれた絵が見えた。
 エジプトの壁画にも似た奇妙な絵だ。壁に掘り込んでその上を顔料で塗ってある。しかし時間が経ち過ぎているのか顔料は色あせ、所々剥げ落ちている。
「なんだ? これ。ファラオの墓か?」
 内部の様子を見てアーチャーが言った。
「違うだろ」
 トルートは同じ個所を照らして言った。
「なんでそう言える?」
「王の墓にしては、しょぼい」
「言えてるな」
 やがて一行は、麻季がいた場所に辿り着いた。
 不安になった麻季はトルートの背に身体を寄せた。それに気が付いたトルートは麻季の方をみると大丈夫だと目で合図した。
「博士、来てくれ」
 スヴァローグが博士を呼んだ。
「なんだと思う?」
 スヴァローグはそう言ってスティックライトで壁を照らして見せた。
「これは……」
 照らされたのは大きな彫像だった。姿は人ではなく何か別の生き物らしい。
 しかし該当する生物に覚えのない種類だ。もしかしたら神話に登場するものかもしれなかったが問題は誰が造ったのかという事だった。
「半身が動物ね……確かに古代エジプトの神々に似た特徴がある」
 ああ、こういう時にインターネットが使えたら
 そう思ったがこの世界には電波も届いていない。ネットから情報収集するのは無理な話だった。
 アンジェラがあらかじめハードディスクに入れておいたデータベースから該当する神話の神を探していたが中々見つからない。もしかしたら世界のどの神にも該当したないのかもしれない。
 その時だ。
「これ見覚えがある」
 麻季が照らされた彫像を指差してそう言った。


 
 

ギャリー・トロット⑪(改)

 古代から獣頭人身の伝説は多い。
 その多くが人間を超えた力を持ち人々から崇められてきた。
 だがキリスト教の台頭によりその存在の多くが神から悪魔へと変えられていく。
 人間の社会性が高度になっていく程、善悪が曖昧な多神教の獣頭人身の神々たちは悪の世界の存在になっていったのだ。
 そんな中にエジプトの神話に登場するのジャッカルの頭を持つ神アヌビスがいる。
 アヌビスは死者の魂を冥界に送ると言われ墓を守る者ともされていた。

 

 ギャリートロット11


 戦闘エージェント"カートドッグス"の隊員たちは遺跡の振動に気付いた 
「落ち着け! 大した揺れじゃない」
 スヴァローグは隊員を落ち着かせた。
 石材をくり抜いた窓から外の様子を窺うリトルビーは暗闇の中に蠢く何かに気が付いていた。
「外に何かいる」
 スヴァローグは窓の方に行くと暗視ゴーグルを被り外の様子を見る。淡い月の光は地面に動く何かを照らしていた。僅か光源は電子装置により増幅され、蠢く何かの正体を映し出す。それは怪物クー・シーの大群だった。
「くそっ! クー・シーだ」
 スヴァローグの拳が握り締められる。
 迂闊だった。
 スヴァローグの後悔をよそにクー・シーたちは速やかに遺跡を包囲していく。
「群れでかよ。なんてこった!」
 スナイパーライフルのスコープを覗きこんだアーチャーが呟く。
 他の隊員たちにも緊張が走る。
 スヴァローグは深呼吸した後、指示を出し始めた。
「よーし、みんな落ち着いて聞け! まずは対狼男装備だ」
 指揮官の指示と同時に隊員たちはライフル銃のマガジンの交換を始めた。
「何?」
 手早く赤いテーピングをしたマガジンの交換をするトルートの作業を珍しそうに覗きこむ麻季は尋ねた。  
「タングステンって特殊な材質の弾だ。あの怪物もこれなら退治できる」
「銀の弾?」
「銀弾?」
「狼男には銀の弾でしょ」
「そうだよな。まあ、こいつは銀弾ではないけど一発の値段は銀弾並みだ」
 トルートは銃弾を装填をし終えると麻季の背中を押した。
「部屋の奥にいけ。俺たちがなんとかする」
「でも……」
「信じろよ」
 そう言ってトルートは片目をつぶって見せた。
 麻季は頷くと言われた通り部屋の奥に行く。
 他の隊員たちも装填をし終えていく。それを見計らってスヴァローグが次の指示を出した。
「この状況では遺跡で迎え撃つのが得策だ。防御陣形をとるぞ。ベア、リトルビー、スティール、下に降りて出入り口を死守しろ」
 支援火器を構えたベアたちは素早く遺跡の一階に向かった。
「ラッシュ、お前は念の為、通路にトラップを仕掛けろ。もし入り口突破されたらそこで食いとめるんだ」
「了解!」
「他の者は開いてる窓から射撃。全ての窓につくんだ。防御に穴を開かすなよ、いいな!」
 米海兵隊出身者の多いカートドッグスの隊員たちから独特の掛け声がかかる。同時に隊員たちは各々窓から射撃位置についた。スヴァローグは今度は警護対象であるアンジェラに指示を出す。
「博士、あなたは部屋の奥へ」
「クー・シーに対抗できるの?」
「ええ、その為の我々です。さあ、行ってください」
 言葉は丁重だったがその顔は険しい。それが状況の厳しさを伝えていた。
 アンジェラが部屋の奥に行くとそこには既に麻季が壁に寄りかかっている。随分と怯えているようだ。無理もない。この少女が何故ここにいるのか分からないが不運な事だとアンジェラは思う。護衛の隊員たちも自分も危険を承知で会社と契約し、この"ナイトワールド"に来ているのだ。に対して彼女は自分の意思でここに来てはいないようだ。誰かの意思により自分の運命が左右されるなどとはアンジェラには考えたくもない事だった。
 うつむく麻季にアンジェラが寄り添う。
「大丈夫?」
「うん、ありがとう」
「心配しないくていい。彼らはプロなの。きっと何とかしてくれるわ」
「うん」
 その時、麻季はある事に気がついた。
 わたし、アンジェラさんの言ってる事が分かってる?


 
 

ギャリー・トロット⑩(改)

ギャリートロットlogo210×297横13

 麻季がなぜこの彫像を覚えているのか分からなかった。
 テレビでもDVDでも見たことが無い筈だ。さらに不思議な事に壁に文字が麻季には解った。何が書かれているのか分かるのだ。
「どこで見た?」
 トルートが麻季に尋ねた。
「思い出せない。でも確かにどこかで見たよ」
「映画とかテレビ番組でか?」
「いえ、そんなんじゃなくて……それにこの壁の文字、解るんだよ」
「読めるのか?」
「うん」
「なんて書いてある?」
 麻季は文字の彫られた壁に顔を向けた。

死を支配する混沌の王は太陽のある世界を追われ黄泉の世界を与えられた。王はひとつの世界には満足はしていない。いずれ太陽の秩序ある世界を手に入れる為の軍団の準備をしている

 麻季は、壁文の一節を読み上げた後、トルートの方を見た。聞いていたトルートの顔は半信半疑だ。
「本当だよ」
「ああ、信じるさ」
 トルートは麻季の肩を軽く叩くと壁画を丹念に調べるアンジェラに声をかけた。
「博士、ちょっといいかな」
 アンジェラは手を止めるとトルートの話を聞いた。
「あの子、この彫像に見覚えがあるってさ」
「どこで?」
「それが思い出せないそうだ」
 アンジェラは考え込んだ。
「日本に似たものがあるのかもね。それか映画かテレビ番組で観たとか」
「彼女は違うと言ってる。それにもうひとつ」
「何?」
「この壁の文字、読めるんだとさ」
「嘘でしょ?」
「麻季が読み上げてくれたが俺には、それが正解かどうか俺には分からないけど」
 アンジェラは壁を見た。
「これは古代バビロニアの文字よ」
「日本のハイスクールで古代バビロニアの文字を教えてるってことか?」
「まさか」
「そうだろうな。だがあの娘が"ナイトワールド"に現れたのは何か理由があるのかも」
 アンジェラはため息をつく。
「納得いかないかい? じゃあ、他に理由は?」
「あるわ」
 アンジェラは麻季の方を見た。
「彼女の妄想」
 
 麻季は彫像の前に立った。
 像の下に何かが書かれていた。麻季は自然と書かれた言葉を口にする。
「"死を支配する王は軍団の復活を待っている"……」
 その時だ。
 突然、部屋が振動を始めた!


 
 

ギャリー・トロット⑫(改)

 麻季は手首に痛みを感じていた。
 カートドッグスの医療担当が手当てをしてくれたが痛みはまだひいていない。我慢できないわけではないが、少し痛みは増しているように感じる。痣の様子を見ようと包帯をそっと外そうとしていた時、アンジェラが声をかけてきた。
「大丈夫?」
「う、うん。手首が気になっちゃって」
 不思議だ。アンジェラの言葉が普通に分かるし、自分も意識せず話している。アンジェラは麻季が英語を話せると思っているから何も不審に思っていない。戸惑っているのは麻季だけだ。
「ドクに見てもらおうか」
 アンジェラは心配しながら言った。
「ううん。いいよ」
 アンジェラの勧めを断ると手首を隠す様に腕を組んだ麻季は、混乱と不安を必死にそれをこらえ、壁に寄りかかった。
 何かが変わり始めている。
 麻季は、そう思いながら部屋を見渡した。

 トールトたちは外の見える位置についてアサルトライフルを構え始めている。さっきの攻撃に備えているのだろう。部屋の中には緊張した空気が満ちていった。

「俺たちに気がついてないんじゃないですかね」
 スコープを覗きながらアーチャーが言う。遺跡の外ではクー・シーの大群が包囲を終えていた。だがすぐには攻撃をしかけてくる様子はない。
「馬鹿言うな。俺たちの居場所が分かっているから取り囲んでるんだぞ」
 スヴァローグはそう言うと群れの様子を窺いながら言った。
「なら何で仕掛けてこないんです?」
 確かにアーチャーの言う通りだ。包囲したのにいまだ仕掛けてこないのはおかしい。
「奴らは、何かを待ってる」
 トルートはライフルの光学照準器をのぞきながら呟いた。
「何?」
 スヴァローグはトルートに聞き返した。
「奴ら何かを待ってるんですよ」
「一体、何を待ってるっていうんだ」
「連中、犬みたいなもんでしょ。犬ってのは本能的に集団行動する。つまりあの群れの中にリーダーがいるんだ。そして、そのリーダーの命令を待ってる」
「なるほど」
「つまり俺たちみたいなもんです」
「確かにな」
 スヴァローグはトルートの分析に納得した。
「おい、トルート。リーダーがいるってんならそいつと交渉できないのか」
 アーチャーがふざけた調子で言う。
「犬だぜ?」
「くそっ! ドッグフードかフリスビーをもってくりゃよかった。交渉の材料になったぜ」
「こんな時に馬鹿な事を……おい、まてよ。今、なんて言った?」
「犬と交渉か? 英国式ジョークだよ。気にするな」
「いや、そこじゃない」
「ドッグフードか、フリスビーを持ってくれば……」
「それだよ、アーチャー」
 トルートの言葉にアーチャーは眉をしかめた。

 ベアたちは入口付近の盾になる大きさの瓦礫を見つけて陣取っていた。
 入口を中心に三方向に銃口を向けている。防御線に死角はない。
「さあ、いつでもきやがれ」
 ベアはカウボーイハットを被り直すとそう呟いた。



 遺跡の周りを取り囲む群れの中に少し違う影があった。
 人間に近い大きさだが様子は少し違う。ひとりはクー・シーにも似た爬虫類の骨の様な顔だ。その不気味な顔とは違い着込んだ黒いロングコートは随分、上等そうだ。
「何故、やらない」
 爬虫類骨の男はそう前のガレキに座りこむ別の男にそう言った。
「気分じゃない」
 黒いスーツを来ていたがその顔はジャッカルか狼の様だ。
「気分じゃない? 気分じゃないだって? ははっ! 最高だね。やはりあんたは"オシリス"の側か、アヌビス」
「違うね。そいつは大きな思い違いだよ、セベク。俺は、セトについてる」
「そう願うね」
 セベクは、そう言うと大きめな岩にひょいと飛び乗ると遺跡を見下ろした。
「連中は、ここでは、よそ者だ。ここは、よそ者は歓迎しない。わかるだろ?」
「分かってる」
「なら、示してくれ」
「なあ、セベク」
 呼ばれたセベクはアヌビスの方を見た。
「いいコートだな」
「ロンドンで仕立てた」
「だが似合わない」
 セベクは不機嫌な唸り声をあげた。

 
 
 

ギャリー・トロット⑬(改)

#3、攻防戦


 麻季は誰かが自分を呼んでる様な気がしていた。
 見渡したがトルートたちは外の対応でこちらの方は構ってられないといった感じで麻季を呼んだ様子はない。
 こっそり隣のアンジェラを見やるが彼女の方はノートパソコンのキーをを忙しなく叩いている。呼びかけたのは彼女でもないらしい。
 後は誰もいないと思っていた部屋の隅。
 光も届かないそこは底なしの暗闇に見えた。麻季は、そこをじっと見つめてみた。

 麻季……

「え?」
「どうしたの? 麻季」
 気がついたアンジェラが声をかけてきた。
「聞こえませんでした? 今の」
「何が?」
 さっきの声はアンジェラには聞こえなかった様だ。
「い、いえ」
 麻季は暗闇を見つめ直した。
 闇を見つめていると何かがいる気がした。しかし、そんなに広くない部屋の中に自分たち以外の誰かがいれば他の者が気づくはずだろう。だが、誰もそんな素振りは見せていない。なのに……。
 その時、何かが闇の中で動いている様な気がした。
 麻季は立ち上がると何かに誘われるように部屋の隅の闇に歩み寄る。
 それにアンジェラが気がついた。
「どうしたの? 君」
 アンジェラの声は麻季には聞こえてこなかった。そのまま闇に入り込もうとする麻季。
「麻季!」
 アンジェラの声が響いた時、ようやく麻季は我に返る。
「あ……」
 その時だ!
 突然、闇の中から何かの手が伸び、麻季の手首を掴む!
 それは人間の手ではなかった。
 針金を巻いて造った様な不格好な手だ。
「え?」
 そして闇から姿を現したのは全身を針金や破片で覆った奇怪な人だった。
「きゃあああ!」
 麻季はパニックに陥り叫び声をあげた。
 その叫び声にカートドッグスの面々が一斉に振り向く。
 部屋の隅で麻季が震えていた。
「大丈夫、大丈夫よ」
 アンジェラが麻季を抱くと落ち着かせようとした。
 トルートがアサルトライフルを構えながらそばに来た。脅威が無いのを確認すると銃口を下げアンジェラに声をかける。
「何があった?」
「分からない。突然、パニックになって」
 トルートは少しかがむと麻季の顔を見た。
「どうしたんだ? 麻季」
 麻季は怯えたままだ。
 様子をうかがっていたスヴァローグ隊長は衛生担当のドクに麻季を診る様に指示した。
「よーし、もう大丈夫だよ。さあ、こっちを向いて」
 そう優しい口調で言いながらドクは麻季の顔を自分の方に向けるとペンライトで瞳を照らした。
「どうだ?」
 トルートがドクに聞いた。
「癲癇かもしれないが多分ヒステリーだ。心配ないだろう」
 ドクはポケットから錠剤を取り出すと麻季に手渡した。
「さあ、それを飲んで。少し楽になる」
 麻季は錠剤を口に入れると言う通り飲み込んだ。
「水だ」
 ドクは麻季に水筒を渡した。
「おい、ドク。おかしな薬じゃないよな。この娘は未成年なんだからな」
「心配ない、市販の鎮静剤だ。軽いやつだよ」
「ならいいけど」
「おい、トルート。お前、まるでこの子の保護者だな」
 トルートはその言葉に眉をしかめた。



 
 
 

 

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