真夜中の占い館で散歩
オリジナル小説の公開です
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ガンダム戦記 白のプラトーン ①

1、ミデア墜落

5稿目

 空は灰色の雲に覆われ光は地上にほとんど射していなかった。
 1年近く前、北米に落下したスペースコロニーは衝突後、粉塵を大気圏まで押し上げた。その影響は、未だに続いている。
 気象状況も゛コロニー落とし゛が実行される以前より格段に悪くなっていた。
 宇宙を拠点とする人アースノイドは、それを゛天の裁き゛と呼び、地球に住む人々は゛悪魔の所業゛と呼んだ。


 宇宙暦0079 12月
 山に近い雲を突き破り一機の連邦軍輸送機"ミデア"が降下していった。
 パイロットたちの目に白い雪と灰色の地肌の入り混じった山岳帯が広がる。
「しつこいジオンめ!」
 地球連邦軍輸送機"ミデア"の機長が吐き捨てるように言った。
 後方にはジオンの主力戦闘機ドップがぴったりと追尾している。数十分前からずっとこの状態だ。
 時折、機銃による射撃を行なってくるが、近距離であったにも関わらず、なぜか一発も命中していなかった。
 幸運なのか意図的なのか、その攻撃の度にミデア乗員たちは、肝を冷やしていた。
「あいつ、遊んでるんですかね?」
 副操縦士が不安げにそう言った。
「どうかな。だが舐められているのは間違いない」
 ミデア輸送機が機体を水平に戻そうとした時、突然、正面の暗雲から別のドップが飛び出て進路を妨害する。
「こ、このやろう!」
 接触を避けようとミデアの機長が必死で急速旋回を行ない機内が大きく揺れる。
「クレイジーな奴め! ぶつける気かよ」
 空中衝突を避けようとしたミデア輸送機は進路を変えたが、そのコースは、威嚇のはずだった銃弾の弾道と重なってしまう。ミデアの左翼エンジンに銃弾が命中した。破片が空中に飛び散る!
「くそっ! やりやがった! 自動消火装置を」
「了解!」
 指示を出す機長のマッカラムの言葉に副操縦士が素早く反応する。
 エンジンの火はすぐに消えたが入れ替わりに深刻な問題が起きていた。ミデア輸送機の不恰好な機体と重量を維持できないところまでパワーはダウンしていたのだ。
「まずいな」
「まずいって、今、まずいって言いました? 中尉」
「気にするな。それより通信はどうか?」
「アウトです。この地域はミノフスキー粒子が馬鹿みたいに高くなってやがる」
 この戦争に実践された電波障害を起こす特殊な粒子は発見者の名前をとってミノフスキー粒子と名付けられていた。ミノフスキー粒子を戦術に活用したジオン公国軍がこの戦争の緒戦においてかなりの戦果を上げる事になったが、同時に自らも誘導兵器を使用できないという矛盾を生じさせた。戦場のいたるところに粒子は散布され各地でその特性を発揮させている。
 そして、この地域もこの厄介な粒子が残留している場所らしかった。
「通信ができないなら援軍は期待できんな」
「そ、そんなぁ…」
 機長の言葉に心細い声で副操縦士が嘆く
「そんな弱気な声を出すな。呼びかけ続けろ」
「でもミノフが」
「あきらめるな! とにかく続けるんだよ」
 いつの間にか危険な山脈の間まで降下を強いられたミデアは無理な速度で飛行を続けるしかなかった。
「メーデー! メーデー! こちら第21輸送部隊。敵機の追撃を受け被弾! 降下を続けている! 至急救援を請う!」
 ミデアの高度がどんどん下がっていく。

 だめか……

 マッカラム機長がそう思った直後だった。山岳地帯を接触ぎりぎりで飛行するミデアに通信が入った。
『……左に切れ…左だ』
 パイロットたちは顔を見合わせた。
「こちら第21輸部隊! そちらは?」
 マッカラムは興奮気味に尋ねた。
『味方だ……早くしろ!』
 雑音の酷い通信の中、相手は強い口調で急かした。
「りょ、了解!」
 機長は、見知らぬ誰かの言葉通り、機体を左に強引に向けた。
 デザートカラーのミデア輸送機は機体を揺らしながら大きく左に旋回していく。
 後方につけていたドップのパイロットはその損傷した機体に不可をかけ過ぎる強引な行動に少し戸惑った。
 しかし、さらに彼を驚かしたのは正面の岩場に見えた"白いモノ"だった!
 
 モビルスーツ?

 ジオンのドップパイロットは直感的にそう思った。
 開戦から一年近くが過ぎていたが彼は自軍のモビルスーツしか目にしていなかった。彼が敵としてのモビルスーツを見るのは今日が初めてだ。
 パイロットが岩場に立つモビルスーツを確認しようと目を凝らした時だった。連邦の白いモビルスーツから何かが光って見えた。
 強力なビーム兵器が発射されたのだ!
 ドップのパイロットは旋回すべく操縦桿を握りなおしたがビームはミサイルより遥かに速い。避け切る間もなくドップは一撃で吹き飛ばされた!
 仲間が撃墜されたの見てビーム兵器の射程から外れようと寮機が慌てて上昇していく。
 白いモビルスーツは逃げる一機にゆっくりと狙いを定めていた。
「残念だったな」
 ロックオンした直後、パイロットはそう呟く。
 強力なビームが機体を吹き飛ばした!
 空に爆発が起きた後、ジオン公国軍戦闘機は地上に破片を散らばせていた。
 岩場の白いモビルスーツは上空を通り過ぎたミデア輸送機を見上げた。
 ドップの脅威が去った筈のミデア輸送機だったが危機は、まだ去っていなかった。
 被弾していたエンジンの一部が限界に達していたのだ。煙を再度、噴出し機体はさらに降下していく。
 異変に気付いた白いモビルスーツは高度を下げていくミデア輸送機の後を追った。

 
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ガンダム戦記 白のプラトーン ②

5稿目

 雑音混じりの中、辛うじて通信が入る。
『ミデア、その先に平地がある……そこに上手く降りれないか?』
 白いモビルスーツからの連絡らしい。
 機長は必死に聞き取ろうとする。
「平地だと? どのくらいか? こっちはホバーリングは難しい状態なんだ」
『100mってとこだ……やれ……それ以上先には山しかない……』
 どうやら覚悟を決めるしかなさそうだ。機長はため息をついた。
「やるしかないか」
 となりの副操縦士は生唾を飲み込む。
「なあ、お前」
「なんです? 中尉」
「こんな事を言うのもなんだが、この俺についた事自体が運がなかったと思ってくれ」
 機長はそう言ってにやりと笑う。
「わ、笑えない冗談です。自分は機長を信頼してますから」
 それこそ笑えない冗談だぜ。 機長は思った。
「しっかりつかまってろよ! いくぞ!」
 機長は操縦桿を握りしめた。
 白いモビルスーツからの連絡のとおり山を越えるとわずかな平地が見えた。
 山をひとつ越えるとモビルスーツのパイロットの言うとおり平地が見えた。ミデアは高度を下げると機体の姿勢を着陸態勢に入った。
 垂直離発着機能を持つミデアには下方に噴射するノズルがあったが今はドップの攻撃により一部が使用できない状態だ。機長は使える全部のノズルを噴射させ減速効果を試みた。
「ちっ!」
 機体が地面に接地設置した! 激しい振動が機体を襲い石と雪を砕き飛ばした。。荒地の為、横転の危険があったが機長は噴射ノズルを駆使してなんとかバランスを保っていたが、速度は思うように落ちず、眼前に崖っぷちが迫っていた!

 だめか……

 機長がそうあきらめかけた時、ミデアの機体に妙な振動が起きた。
 何かが接触したようだ。次の瞬間、コクピットの前を白い装甲が覆いかぶさった!
「さっきのモビルスーツか?」
 機長は目の前に現れミデアの機体にしがみつく白いモビルスーツの行動に戸惑った。
 白いモビルスーツはミデアの機首部分を掴んだ格好で足を接地させる! 耳触りの悪い音が響く。モビルスーツの足部分がエッジとなって急速に突進速度が落としていく。
「中尉!」
「まだだ! まだ速すぎる」
 ミデアにしがみついったモビルスーツは背面に装備しているブースターを作動させた!
 チタン合金製の足が荒地を削り火花を散らす。
「まじか? 信じられん」
 崖っぷち直前でミデアは、ようやくその突進を止めた。
 白いモビルスーツがミデアのフロント部分からゆっくりと離れていく。
 ミデア輸送機と乗員たちは最悪の事態を逃れる事ができた。
「た、助かった」
 副機長がシートに深く倒れこみながらそう呟いた。 
 だが、これが長い攻防戦の幕開けになるとは、この時、誰にもわからなかった。


 ミデアは崖から落下はしなかったものの機体に大きな損傷を受けていた。とても離陸ができる状態とはいえない。機体の一部は外壁が剥がれ内部に光が差し込んでいた。
 その光に気づき、ジオンの軍服を着る少女はゆっくりと立ち上がった。
 痛む頭をそっと触ってみる。 血は出ていないようだ。
 それにしても信じられない揺れと衝撃だった。
 それらが終わった今は、機体の振動もエンジンの音も聞こえないまったくの静寂に変わっていた。
 壁を手で押さえ立ち上がると機体が斜めになっていることに気がついた。

 これ、墜落した?

 彼女は次第に状況を理解していった。
 アクシデントが起きている。
 今いるのは基地でも空港でもない。きっと事故が起きたのだ。
 斜めになった床を壁をつたいながらドアに向かって進む。
 ドアノブを回してみたがロックは解かれていない。
 さっきの衝撃でもしものことがあると思い試してみたが淡い期待は外れた。
 その時、何かが焼ける臭いがしてくるのに気がついた。もしかしたら燃料に火がついているのかもしれない。
「開けて! 開けて! だれか!」
 少女は必死にドアを叩いた。しかし返事は帰ってこない。それでも彼女は必死に叩き続けた。

 誰か!

 彼女が諦めかけた時だった。周囲が振動を始めているのに気がついた。
 壁にもたれかけ様子を見守っていると天井から破片が落ちてくる。
「何?」
 少女は破片をよけながら部屋の隅に寄った。
 耳障りな音と共に天井に亀裂が入っていく。内壁を止めていた小さなボルトが吹き飛んでいく。
 不安げに上に目を向けるとチタンと強化プラスチックの機体がはがされていくのが見えた。外が見えるのと同時に冷たい外気が一気に侵入してくる。思わず身震いする少女を上から外の光が照らした。
 見上げるとわずかに開い天井の隙間から姿を見せていたのはスモークシールド施した巨大なヘルメットの様な物体だった。
 少女は呆然とその金属の"顔"を見上げた。

 
 

ガンダム戦記 白のプラトーン ③

 5稿目

 裂けた外壁から冷たい外気が入り込んできた。
 風が彼女の髪を吹き上げる。
「モビルスーツ?」
 彼女に思い浮かんだのはそれだった。ジオンの巨大な人型兵器。しかしジオンのザクと呼ばれるモビルスーツのように"ひとつ目"ではなかった。ボディの色も緑ではなく白だ。
 機械の巨人は、その顔を突き破った穴から離していった。
 穴からモビルスーツの全身が見えた。ザクよりずっとスリムでシンプルだった。ほぼ白いく塗装されていたが上半身の胸部と肩部分だけは赤くカラーリングされている。少女は人間のようなそのシルエットに見とれていた。
 その時だ!

『少し離れてろ!』

 スピーカー越しに脅すような声が聞こえてくる。
 どうやらモビルスーツのパイロットらしい。
 少女は指示に従い急いで後ろに下がった。
 白いモビルスーツはの手が機体のに開いた小さな穴を強引に広げていった。
 しばらくすると穴は2メートルほどに広がっていた。その中にモビルスーツの巨大な゛手゛が入り込む。その金属の巨人の手は少女の目の前に差し出された。機械の゛手゛は人ひとりが乗るには丁度いい大きさだった。
 躊躇している少女の目の前に再びモビルスーツのパイロットからの声が入る。
『そこに乗れ。助けてやる』
 パイロットの申し出に少女は頷くとその機械の手に飛び乗った。
『身体を低くして掴まってろ』
 少女を乗せたモビルスーツの゛手゛がゆっくりと持ち上げられていく。
 機体の外は風が強く少女の赤みがかった髪を煽った。
 10メートルも上がると遥か遠くが見渡せた。
「わあ……」
 初めて目にする山脈と大地の広さに少女は思わず声を洩らす。
 それはスペースコロニーとは違う種類の"広さ"だった。彼女はそれを目に焼き付けようと周囲を見渡した。
 その時、彼女の乗った"手"が揺れた。思わず"指"にしがみつく。
『大丈夫だ。そのまま大人しくしてろ』
 そう告げられると、ゆっくりと少女を乗せた"手"が地面に降ろされていく。下を見たとき、少女は地面を所々覆う白いものに気がついた。
「雪?」
 恐々と雪で覆われた地面を見つめる少女は中々モビルスーツの手から降りない。
『どうした? 早くしろよ』
 モビルスーツのパイロットが急かす。
「は、はい」
 意を決してモビルスーツの手から飛び降りた少女は足元の感覚に戸惑った。
「これが本物の雪なの? すごく冷たい」
 少女は、その場にうずくまると足元の雪を手にすくい始めた。
 モビルスーツのメインカメラが楽しそうに雪をすくう少女の姿をズームアップする。
「雪だ! 本物の雪!」
 手に持った雪を見てうれしそうに微笑む少女は、傍に立つ連邦のモビルスーツのことなど、まったく気にしてない様だった。
「おかしなヤツだぜ」
 モビルスーツのパイロットはモニターに映る無邪気なその様子につい笑ってしまった。


 
 

ガンダム戦記 白のプラトーン ④

2.セレナ・パマス

 4稿目

 ギムリ・ハウンズは、墜落したミデア輸送機から何とか這い出した。
 立ち上がって辺りと見回すと機体の破片が散らばっている。原型の残る機体も翼は変形し、エンジン付近からは煙が上がっていた。
 次第に自分の置かれた状況を把握してくると、とたんに絶望感に襲が襲う。
「なんてこった……」
 ギムリは素直にそう思う。
 その時だ。ギムリの視界に近づいてくる連邦軍の車両が数台見えた。
「助かった!」
 車両に向って大げさに手を振るギムリ
「おーい! こっちだ!」
 車両の列は、墜落したミデアにそのまま近づいてきた。機体の少し手前で停まると中から兵士たちが降りてくる。
 ようやくの助けに安堵の笑みを浮かべるギムリだったが兵士たちはギムリを無視して墜落してミデアに入っていく。
「そりゃ他にも生存者はいるかもしれんが、無視することはないだろうが」
 ギムリは、ミデアを見上げる大柄な兵士を見つけると彼に近づいた。
「君! そこの兵隊!」
 大男は面倒くさそうに振り向いた。
「なんです? あんたは?」
 態度は悪いと思ったが今、自分は助けを請う身だ。ギムリは兵士の無作法な態度を我慢した。
「私はギムリ・ハウンズ少佐。現在、情報部の特別任務を遂行中だ。協力してほしい」
「情報部?」
 男は怪訝そうな顔をし見下ろした。ギムリは近づいて改めて気がついたが、かなりの大男だ。
「そ、そうだ。自分は今、捕虜の輸送中だった」
「捕虜? こいつにジオンが乗ってるんですかい!」
 大男は顔つきを変えると無線機を取りだした。
「おい、バンザだ。そのミデアにはジオンも乗ってるぞ! お前ら注意しろよ!」
 大男は無線機に向かって大声で怒鳴った。
 ギムリ少佐は、兵士たちが行き過ぎた行為をしないか心配になった。何しろ自分には、この重要人物を生きたまま連れていくという任務がある。
「まあ、捕虜といってもだ……」
 ギムリ・ハウンズが、バンザに言いかけた時だ。
 突然、黒い大きな影が二人を覆っていた。
 二人が見上げるとRGM-79"ジム"が見下ろしている。
 RGM-79ジムは地球連邦軍が配備した初の量産モビルスーツだった。
 ジオンの主力モビルスーツ MS-06"ザク"よりも性能は落ちると評されるものの、その戦闘力は従来の戦車などの通常地上兵器よりもよほど高い。南米の連邦軍本部"ジャブロー"を大規模攻撃されて以降、驚くべきペースで各地に配備された新兵器である。
「少尉!」
 大男はRGM-79に向かって叫んだ。
「ミデアの中にはジオンが入り込んでいるそうです!」
 RGM-79の頭が足元のバンザに向けられた。
 大男は横にいる情報部の将校を見やった。
「この情報部のお偉いさんが言ってるんですよ! このミデアにジオンの捕虜が乗ってるって!」
 ジムの外部スピーカーから声がした。
『何人だ?』
 その問いかけにギムリ・ハウンズ少佐は派手な身振りで応じた。
「ひとりだ。たったひとり! だが大切な捕虜なんだ! 君の部下に殺させないようにしてくれ」
 ギムリがジムに向かって必死に叫ぶ。
 ジムは腰をかがめた格好をとった。制御するコンピュータのおかげか、その動きは実にスムーズで人間の動きそのものに見えた。
『その入り込んでるジオンってのはこれか?』
 ジムはチタン合金製の゛手゛を下ろした。
 そこに乗っていたのはジオンの制服を着た少女だ。ジムの指に危なげに掴まっている。
「そいつだ!」
 少女を見つけるとギムリが大声を張り上げて指差した。あまりの大声に隣にいた大男は耳を押さえる。
「こいつめ! 逃げ出そうとしたな!」
 キムリはジムの手に這い上がると嫌がる少女を無理やりひきずり下ろした。
「こ、このぉ、逆らうか!」
 ギムリは少女の頬に平手打ちをした!
「大人しく従え!」
 さらに激しく抵抗する少女の態度に腹を立てたギムリは再び手を上げた。
 思わず目をつぶる少女。
 その時だ! ビームガンの閃光が発射音と共に周囲を照らす! 地上にいた三人はRGM-79ジムの突然の行動に驚き、動きを止めた。
「な、なんだ? 敵か?」
 ギムリは周囲を見渡した。しかし周囲に敵の姿はない。
『そこまでだ』
 ジムのスピーカーが響いた。
 ジムのコクピットが開くと簡易リフトに掴まってパイロットが降りてきた。ヘルメットもパイロットスーツも着ていない。それどころか詰襟もきちんとしていない。一般兵のようにも見えたが翼見ると肩の階級章には少尉の印があった。
 パイロットはリフトから飛び降りるとギムリのそばに向かった。
「気にいらねえな。お偉いさん」
 パイロットは、そう言うと少女の前に庇うように立った。
「な、なんだ? 君は!」
「タスケ・アカギ少尉です。少佐」
 アカギは名乗ると簡単に敬礼を済ました。
「少尉。態度がなってないようだが私は君より階級が上の人間だぞ? それに、これは情報部の仕事だ。引っ込んでいてもらおうか!」
「引っ込んでろだって?」
 アカギは顔つきを変えるとギムリを睨みつけた。
「あ、いや、その」
 下士官の反抗的な態度に戸惑うギムリは思わず後ずさりをした。どうやら彼には階級は関係ないようだ。
 とんだ愚連隊だ。
 ギムリは思った。
 さらにモビルスーツから降りてきた少尉は前に出て威圧する。
「あんた、何か勘違いしてないかい? 少佐殿。ここは俺たちの縄張なんだぜ? あったかい司令部の部屋とは違うんだよ」
「き、君は私のする事が気に入らないようだが、これは任務だ」
「情報部の任務ってのは、女を殴ることかい? 」
 アカギは少佐を馬鹿にしたような目で見た。
「き、貴様!」
 少尉の態度にさすがにカッとしたギムリは殴りかかろうとした。
 が、しかし
「どーしました? 少尉」
 タイミング良くミデアの中に入っていた兵士たちがアサルトライフルを担いでぞろぞろと出てきた。
 次々とアカギの背後に集まってくる兵士たちにギムリは身の危険を感じていた。彼らはアカギの部下なのだ。
「おい! あれ、ジオンじゃねーのか!」
 兵士たちはジオンの制服を着た少女を見つけると慌ててアサルトライフルを構えた。
「こいつは違う!」
 アカギのきつい一言に兵士たちは銃口を下げると顔を見合わせた。
「でもジオンの軍服だよなぁ、あれ」
「そうだよな」
 兵士たちは自分達の指揮官の奇妙な言動に戸惑っていた。
「捕まえるのはこっちだ」
 兵士たちはその命令に驚いていた。アカギが指差したのはジオンの人間ではなく連邦軍の制服を着た情報部将校だったからだ。
「えっ? な、なにを言ってる? 少尉」
 指を指された方のギムリ少佐は動揺しながら後ずさりする。
「こいつはさ、連邦の少佐を名乗っているが実はスパイだ。ご苦労なことに俺たちの様子を探りに来たそうだ」
 その言葉で兵士たちの顔つきが変わる。
「お前たち! そんな馬鹿な話を信じるのか! この階級章を見ろ! こら! 私は情報部少佐だぞ」
 そんな言葉も無視してアカギは命令をだした。
「バンザ軍曹!」
「はい少尉!」ギムリの隣にいた大男が大声で返事をする。
「このスパイを連れてけ! 営倉にぶち込んでおくんだ」
「喜んで!」
 バンザはギムリの後ろに回ると腕を鷲づかみした。その強烈な握力にギムリは痛みで顔を歪める。
「いててて! よ、よせ! 私は少佐だぞ!」
「黙ってな。スパイさんよぉ」
 バンザ軍曹は不敵な笑みを浮かべてギムリを引きずって行った。
「こ、こら! よせ! おまえ! 軍法会議ものだぞ!」
 わめくギムリを無視でてバンザは彼を強引に車に押し込んだ。
 その様子を見守っていた少女はよく事態が、よくわからなくなっていた。
 何しろ目の前で連邦軍同士が言い争い、同じ連邦軍士官を逮捕したのだ。
 ジオン軍の制服を着る自分ではなく。
「さてと」
 アカギは腰に手を当てながら少女の方を振り向いた。
「何者だ? おまえ」
 アカギの言葉に少女は戸惑う。
「名前くらいあるだろう? 何て名だ?」
「セレナ……セレナ・パマス」
 少女は戸惑いながらそう答えた。

 
 

ガンダム戦記 白のプラトーン ⑤

4稿目


 太陽が真上に来る頃、気温は幾分上がっていた。
 モビルスーツRGM-79が先行して進む後を2台の4輪駆動車それとミデアから運び出した物資を大量に積み込んだトラックが続いていた。目指すのは彼らの本拠である地球連邦中央アジア方面軍第501補給基地だ。
「何する気だ?」
 突き出された注射器の針を見て救出されたミデア輸送機の乗員は言った。
「感染症の予防注射だ。心配するな」
 トラックの荷台に中で乗員たちに簡単な治療を行なっていた衛生兵はぶっきらぼうにそう言う。
「ここらには、たちの悪い菌が多いからな」
 衛生兵はさらにそう付け加える。
 生き残った乗員は7名。
 皆、軽症であったが衛生兵は、全員に感染症の予防だと言って全員に注射を打ってまわった。

 道のない悪路が終わり車道の後が残る道に出た。とはいえRGM-79ジムの作った足跡に入り込むとシャレにならないほど大揺れする。ドライバーは注意してジムの足跡を避けて運転した。
 やがて道の先に大きな施設が見えてくる。
 古代の城砦を改造したその場所は今では連邦軍の補給基地に生まれ変わっていた。頑丈そうな岩盤には石像のようなものが彫られている場所もあったが殆んどは破壊されているか近代的な外装を施していた。
 RGM-79ジムと4輪駆動車が近づくとゲートが開かれた。
 戦線がまだ近くにあった時はこの基地も昼夜も問わずフル稼働していたが戦線が移動した今は暇なものだった。連邦軍の進攻が順調ならば撤収もそう遠くない話だった。
 開かれたゲートを通るジムと車両部隊。後方の一台の中にはミデア輸送機から助け出したセレナ・パマスが乗っていた。
 セレナは車から外の景色をずっと眺めていた。彼女には、この城砦の所々に残る建造物の"古さ"が珍しくてたまらないのだ。コロニーではどんなに古い建造物も50年がいいところだった。しかし目の前にあるものは軽くその10倍以上は昔のものだろう。その荘厳さを感じたセレナは感激していた。
 子供の様に目を輝かせながら外を眺めるジオン軍の人間に隣に座っていた連邦軍兵士は、呆れて肩を竦める。
 ゲートの中には数台のトラックが停まっていた。現地の民間人らしい人間たちが荷物の積み込みをしている。
 セレナが、何気にそれを見つめていると白いモビルスーツがその場所で停止した。しばらくするとコクピットから見覚えのある人間が降りてきた。

 あの人だ。

 それは自分をかばってくれた連邦軍士官だった。
 セレナは、彼を目で追った。すると現地人の現地人が数人彼に近づいき、親しげに手を挙げていた。
「よう、アカギ」
「繁盛してるようだな、パパ」
「ふふん、あんたのおかげさ」
 そう言って男はアカギに札束を渡した。アカギはそれを受け取ると少し離れた場所にいる部下の方を見た。
「ジュノ!」
 アカギがそう呼ぶと小柄な東洋系の兵士が小走りでやってきた。
「お帰りなさい、少尉。大漁ですね。すごいや」
「ああ、こいつを数えとけ」
「はい、お任せを。少尉」
 アカギは小柄な男に札束を渡した後、パパと呼んだ現地人の男の方を見た。
「ところでパパ、例の頼んどいたものは見つかったかい?」
「ああ、いい場所があるにはあるんだが、あんたの希望より少々狭いんだ」
「他に目星は?」
「探してるんだが中々ね」
「希望のスペースより狭くても構わない。そんなのを後、二、三ヶ所見つけといてくれよ」
「急いでいるみたいだな」
「まあな。最近、入ってきた情報だと、ジオンの宇宙要塞"ソロモン"は陥落したって話だ。ジオンに残ってるのはサイド3を後ろに控えた宇宙要塞"ア・バオ・ア・クー"だが連邦軍がそこまでいけば戦争も仕舞だろ。商売もそれまでって事だ」
「むう……おいしい話もそれまでという事か」
 パパは、神妙な顔つきで黒い髭をさする。
「だが戦争継続の間はここは使用されるはずだ。それまでにできるだけ物資を集める。戦争が終わって世界中が再建を開始すればさらに物資は必要になってくるだろうさ。その時、十分捌けるように在庫しとくんだよ」
「今より儲かるかな」
「俺を信じろよ。戦争は終わっても、横流しのルートはなんとか残しておくつもりだ。俺と組んでればもっと稼がせてやる」
 そう言ってアカギはパパの肩を叩いた。パパはニヤリと笑う。
「期待してるぜ、アカギ」
 二人の話が済んだ頃、金を数え終わった小柄な兵士が立ちあがった。
「約束の金額あります! 少尉」
「正直だな。パパ」
 パパは肩をすくめた。
 アカギは札束から幾らか引き抜くとババに渡した。
「これは?」
 アカギはトラックから下ろされる怪我人たちを指差した。
「連中を手当てしてやってほしい。その代金だ」
「重症なのか?」
「いいや。だが連中は"部外者"だ。ここ置いて余計なことは知られたくない」
 パパはにやりとした。
「なるほど」
 そう話でいる時、大柄な浅黒い兵士が傍にやってきた。アカギの腹心であるバンザ軍曹だ。
「やあ、バンザ。元気かい?」
 バンザは先にアカギに敬礼した後、パパに笑いかけた。
「ああ、まあまあさ。あんたは? パパ」
「変わり映えないね。でもそれは良いことさ」
「マンネリがか?」
「仮に今、ツイているとしたら必ず後でその分ツキが落ちる。逆もまた然りだ。いつでも同じってのが一番いいのさ」
「そんなものかね」
 バンザはパパの話を聞いて肩をすくめた。
「で、何んだ? 軍曹」
「失礼しました、中尉。救出した乗員の事です」
「手はず通りしてるな」
「はい、連中はパイロットも含め7名。感染症の予防だとかなんとか理由をつけて全員にモルヒネを打ちました。ラリっていて、今は、ここの事もよくわかっとらんでしょう」
「結構」
 アカギはにやりと笑った。
「俺たちの方で始末するか?」
パパがそう口を挟んだ。
「いや、それはしなくていい。怪我が治ったら俺たちが適当なとこで本隊へ戻す。わかってると思うが余計な事は知らせるな」
「わかってるさ。商売に差し支えるからな。それじゃあ、荷はいただいてくぜ。また頼む」
 パパはアカギと握手を交わすと乗ってきたトラックに戻っていった。
「とぼけた親父だぜ」
 バンザがパパを見送りながらそう言った。
「あれで、この辺の組織を仕切っているんだから驚きだよな」
「まったくです」
 上官の言葉にバンザは同意した。
「さてとお次は……」
 アカギは車に乗っているセレナを見やった。
「どうします? あのジオン兵」
 バンザが髪の毛の無い頭を掻きながらそう言った。
 アカギは、しばらく考えた後、口を開いた。
「とりあえず尋問だ」
 

 
 

ガンダム戦記 白のプラトーン ⑥

 4稿目


 セレナ・パマスはアカギの部屋に連れていかれた。
 小ぎれいに片付けられた部屋だったがどこか殺風景だ。
「座れよ」
 そう言われセレナは古ぼけた木製の椅子に座る。
 椅子に座らせてしばらくするとアカギはコーヒーを入れてきた。
「飲めよ。少し温まるぞ」
 セレナはカップを受け取ると両手で包み込むようにそれを持った。
「ありがとう」
 カップは温かかった。温かさが手から体に広がってくる様だ。
「どこかに怪我は?」
「いいえ、大丈夫だと思う。ただ、すごくドキドキした」
「生きてる証拠さ」
 アカギは自分の分をカップに注いだ。
「さて、ジオンのお嬢さん。質問させてもらうぞ? お前は何者だ?」
「私はセレナ・パマス」
「そいつはもう聞いたし俺が聞きたのは名前じゃない。お前の所属とか、今まで何をしてたか、だよ」
「所属?」
「部隊名とか部署とか……そんなもんだ」
 セレナは何かを思い出すように俯いた後、答えた。
「どこにも所属はしてません。普通に生活していただけです」
「普通? 世界の半分は死んでるんだよ。そんな時に普通に生活するにするって方が"普通"のことじゃないんだぜ。わかるか?」
 アカギの言葉に心細そうな目を向けるセレナ。そんなセレナの視線にアカギは目をそらした。
「わかった。もういいよ」
 アカギはため息をつくと自分の分のコーヒーカップを持った。
「悪いが、しばらくここに軟禁させてもらう。酷い扱いなんていうなよ。"南極条約"には、従っているし、独房や別の個室に置いておくと、お前の"身"が危ないんだからな」
 セレナはにこりと微笑んだ。
「酷いだなんてそんな……だってアカギさんには感謝しています。さっきも助けてくれたし」
 いつの間にか聞き覚えたのかセレナはアカギの名を言うと礼を言った。
「さっきの事か?」
 セレナは頷く。
「まあ、"あんなヤツ"が嫌いだというのもあるが、ヨソ者を押さえる理由が欲しかっただけだよ」
 アカギはコーヒーカップを片手にデスクに寄りかかった。
「俺は、お前が思うほど、"お人良し"じゃない。何しろここは"普通"の連邦とは少し違うからな」
「それでも嬉しいです」
 そう言って笑顔を見せるセレナにアカギは相手がジオンだという事を一瞬忘れそうになっていた。
 セレナの方も相手が連邦軍だという感覚がないのかもしれなかった。
「まあいいさ。そのうちジオン返してやる」
「私、ジオンに帰りたくない」
 セレナは口調を強くして言い切った。
 それに少し驚きながらアカギはセレナを見ると彼女の表情は沈んでいる。
「亡命希望者なのか?」
「亡命じゃないけど……ジオンも……ジオンも連邦も関係ない所に行きたいんです」
 そう言うセレナの表情はどこか思いつめた感じだった。
 何かあるんだろうが……
 そう思ってコーヒーをすすりながらセレナの様子を観察するアカギ。
 彼は迷っていた。
 このセレナ。パマスが゛副業゛に障害になる要因なのかならないのか。
 地元組織への副業とは物資の横流しである。
 その時、ノックが聞こえた。
「誰だ?」
「バンザです。ちょっとお話が」
 太い声が響く。
「入れ」
「失礼します」
 大柄な男が中に入って来た。バンザは椅子に座りリラックスしてコーヒーを飲むセレナを見つけると唖然とした。その様子があまりにも敵軍の捕虜の雰囲気ではなかったからだ。
「用はなんだ? 軍曹」
 唖然とするバンザを急かすアカギ。
「は、はい。ちょっと通信室に来てもらえますか」
「何があった?」
「少し気になる事があるんです」


 
 

ガンダム戦記 白のプラトーン ⑦

3、アタック・ザ・ジオン

四稿目



 墜落したミデアから無事な物資が次々と運び出されていた。
 トラックには、入りきらないほどの荷物で一杯だ。補給基地に配備されていた別のRGM-79ジムも、この"回収作業"に駆り出されていた。
 不時着で変形した機体をモビルスーツのパワーで強引にこじ開けていく。
「おお、すげえな」
 中を覗き込んだ連邦軍兵士は、その大量の物資に歓喜した。
「よーし! やれ」
 ジムは大型のコンテナを器用に持ち上げると輸送機の外に運び出しを始めていく。
「まったくよ! こんな事をする為に俺はモビルスーツ乗りに志願したわけじゃねえってのによ」
 RGM-79ジムのパイロットがそんな独り言をいいながら作業を行なう。不幸だったのは無線が開きっぱなしだったこと。
『文句言うな! こんな状態じゃリフトは使えねーんだ! MSで運び出すしかねェ』
 ジムの足元から怒鳴り声がした。
『それにお前は知らねえかもしれねーがMSってのは元々、採掘用のマシーンなんだよ。だからこれがモビルスーツの本来の姿ってことだ』
「それはザクの原型の話だろうが。こいつはジムだ。連邦の戦闘用MSなんだよ……」
 ジムのパイロットは小声で文句を呟いた。
『何かいったか?』
「な、なんでもねえよ!」
 MSパイロットは渋々作業を続けた。



 淡々と作業を続けるRGM-79ジム。
 その様子を岩場の陰から視線が向けられる。
 ダークグリーンの機体は気付かれないように静かに移動する。18m越える巨人がその存在を完全に消すのは至難の業だったがそのパイロットは見事にやってのけていた。ダークグリーンのモビルスーツは、大口径のモビルスーツ用のマシンガンを構えながら慎重に進む。
 MS-06"ザクⅡ"と呼ばれるこのモビルスーツはジオン公国軍の主力MSだ。
 連邦軍は初戦において、この一つ目の巨人に散々な目に遭わされていた。ジオンの最新技術を投入して作られたこの新兵器は、ほぼ無敵といっていい ほどの活躍を見せていた。スキルアップしていった対モビルスーツの戦術と自軍のモビルスーツ登場で、ようやく連邦軍にも対抗手段は増えた。しかし、それでも"ザク"は連邦軍兵士たちの脅威である事は変りはなかった。
「ザ、ザク?」
 作業をしていた連邦軍兵士が物音に気がつき見上げるとジオンのモビルスーツが岩場から姿を現していた。
 ザクの外部カメラが慌てふためく連邦軍兵士をズームアップさせた。発見されたジオンのパイロットは悔しげに舌打ちすると機体を起こし始めた。核融合炉の出力が上がり、排気口から白いガスが吹き出る。
「ジオン! ジオン軍だ!」
 ザクを見つけた連邦軍兵士の大声に作業中だった他の兵士を一斉に手を止めた!
 次の瞬間、MS-06ザクはミデア輸送機に向かって何かを放り投げた。
 放り投げられた何かが爆発を起こすと空中で閃光と大音響を発生させた!
 ザクの携帯兵器、通称"クラッカー"だ。その場にいた連邦軍兵士はもちろん作業中のジムも視界を一瞬失った。ジムのコクピットのスクリーンにノイズが入り映像が途絶えた!
「嘘だろ?」
 パイロットはジムの抱えていたコンテナを放り出すとビームガンを構えさせた。しかし目の前が見えなければ敵を狙撃もできない。その事実がジムのパイロットに次第にのしかかる。
 そしてそれは不幸な現実となった。
 ザクはその期を逃さず身を乗り出すと120㎜マシンガンを撃ちまくった! 巨大な薬莢が地面に落ちていく。積もっていた雪が薬莢の熱により蒸発して白い湯気を上げていく。続けてザクマシンガンの大型薬莢が地面に落ちていった。
 視界を失ったジムは射撃の的状態だった。マシンガンより撃たれる大口径弾丸がRGM-79の人型の機体を打ち抜いた。何の反撃も出来ないままその場に崩れ落ちるジム。機体が大地に接すると同時に積もった雪が粉の様に舞った。
 反撃の無いのを確認するとザクは射撃を止めた。
「制圧完了!」
 ジオン軍のパイロットが通信を入れる。
 それを合図に背後の岩場からジオン軍のモビルスーツ群が姿を現した。


 
 

ガンダム戦記 白のプラトーン ⑧

 四稿目



 連邦軍第501補給基地では異変の兆候を感じ取り始めていた。
「おかしな通信が飛び交ってるんです」
 通信兵は、そう切り出した。
「おかしな?」
 通信室に連れてこられたアカギは神妙な顔つきの通信兵の言葉に耳を傾けた。
「ええ、信号だったり、意味のわからない言葉だったり、とにかく色々です」
「今もでか?」
「いえ。でも録音してあります」
「聞かせてくれ」
 通信兵は音源を再生させた。
 しばらくそれを聞いていたアカギだったが次第に顔が険しくなっていく。
「暗号だな」
 アカギのその言葉を聞いたバンザも顔つきが変わる。
「暗号? 敵ですか?」
「かもな。数時間前からのミノフの濃さもだが、ミデアを襲ったドップ。どうも気になる」
「ジオンがミノフスキー粒子を散布してるってんですか? けど、このあたりのジオンはとっくに撤退をしたはずでしょ? 残存戦力は宇宙かアフリカに逃げたって聞いてますよ」
 通信兵が不安げな顔でそう言った。
「掃討作戦を展開中の部隊もこの近くをうろついてるって話も入ってきてます。少しキナ臭いですな」
「新しい戦略的移動があったのかもしれん。が、確認しようにも。この濃いミノフスキー粒子のせいで司令部とは連絡はつかない」
「索敵しますか?」
 言うが早いか、バンザが地図を広げた。アカギはバンザのこういうところが気に入っている。
「ああ、適当な連中をみつくろって……そうだな。こことここ。それとこの辺りに様子を見に行かせろ」
 アカギは地図上の数箇所を指差して指示した。
「了解」
「それから、あの情報部だとかいう"クソったれ"だが」
「そのクソったれですが、空き倉庫に放り込んでおきました」
「倉庫には暖房も無いな」
「特別待遇です」
 バンサがそう言ってニヤリと笑う。
「では感想を聞きにいこうか」
「尋問ですか?」
「急激なミノフスキー粒子量の増加とミデアの墜落。単なる偶然かな」
「関連があるって事ですか?」
「ミデアのパイロットの話では二機のドップは威嚇に終始していたそうだ。俺がドップのパイロットだったら獲物を見つけてそんなマヌケなことはしないぞ。あれはパイロットの気まぐれでは、なく何かの作戦を遂行中でそれがまだ継続中としたら?」
「嫌な感じです」
 バンザの表情がさらに険しくなる
「おい、通信を聞き逃すなよ。何か変な言葉が飛び交ったらすぐ知らせろ」
 そういってアカギは通信兵の肩を叩いた。
「りょ、了解です」
 通信兵はヘッドフォンを付けると再び周波数の操作を始めた。
 アカギとバンザは通信室から出た。
「まったく、すっきりしないことが続く。気に入らんな」
 アカギは頭を掻きながらそう呟いた。
「差し出がましいようですが少尉」
「なんだ? バンザ軍曹」
「あのジオンの女」
「ああ、かわいいだろ。セレナっていうんだ」
「はあ? いや、それはそれでいいんですがね。それより大丈夫ですか? 彼女スパイかも」
「ジオンにスパイされてもここには連中が喜ぶ程、大した情報はないぞ」
 アカギは、そう言ってにやりと笑う。
「それよりも連邦にスパイされると困ることがあるはずだろ? この基地の場合」
「まあ、そうですがね」
 肩をすくめるバンザ。
「それに、"あんなスパイ"は、いない」
 そう言い切るアカギにバンザは少し驚いた。
「なぜそう言えるんです? 何か根拠が?」
「根拠? そんなもんはないね。こいつは"勘"ってやつだ」
 その言葉を聞いたバンザは眉をひそめた。
「勘……ですか?」
 バンザはこの上官のことは気に入っていたが、たまに彼の性格が掴み切れない時がある。
 今がその時だった。


 
 

ガンダム戦記 白のプラトーン ⑨

 5稿目

 倉庫に閉じ込められた連邦軍情報部のギムリ少佐は物資の箱を物色していた。
 何か脱出の道具になるものか探していたのだ。
「くそっ! 何か残しておけってんだよ」
 ギムリは、苛立ち紛れに空き箱を蹴飛ばす。
 空き缶がドアにぶつかると同時にの鍵が開く音がした。
 ドアが開くとバンザとアカギが立っていた。
「おいおい、ずいぶん散かしたな」
 仁王立ちしているバンザがギムリをにらみつける。焦るギムリは後ずさりする。
 実のところギムリはこの軍曹に苦手意識を持っていた。
「おい、お前」
 アカギがバンザの前に出た。
 こいつも気に入らない。
 ギムリは思った。
「知ってることを全部話してもらおうか」
「私は君より階級が上だぞ! 早くこの無礼な状況を改善したまえ!」
「そいつは、あんたのスパイ容疑が晴れてからだ。本当に少佐なのかもわからんしな」
「司令部に照会すればいい」
「生憎、数時間前からミノフスキー粒子が濃くなってね。現在、司令部との交信は不可能だ」
「そんな出来過ぎの嘘をつくな。私を勾留する方便だろう」
 ギムリはアカギの話を信用してないようだった。
「いや、本当のことさ。この事は俺たちも不審に思っているんだ。あんた、何か知ってないか?」
「何?」
「ミノフの異常増加はミデアが接近するとほぼ同時。気になった俺が索敵に出た途端、あんたらの乗ったミデアと遭遇さ。いいタイミングだと思わないか?」
「連邦軍機を見つけたんだ。ミノフスキー粒子の散布は当然の戦術だろ」
「ここは連邦軍勢力下なんだ。机上の作戦しかしらんあんたらのような人間にはわからんだろうが、ドップがたった二機で侵入してくるのは決死隊ってことだ。その目的がミデアの追跡だけの為にか? 不自然だね」
 そう言ってアカギは肩を竦めた。
「あのミデアには何があるんだろ? 少佐殿」
「それが軍の作戦というものさ」
「俺たちは自分の身を守りたい。知りもしない事情で危険をさらすのはやだね」
 ギムリは考え込んだ。
 この少尉は少し生意気で反抗的ではあるが頭は回るようだ。上手く利用できればいい駒になるかもしれない。
「協力してくれるなら状況を話すよ。少尉」
 アカギとバンザは顔を見合わせた。バンザは軽く相槌をうった。いい駆け引きだ。アカギもそれに頷いた。
「確約はできない。内容による」




 その頃、部屋に待たされていたセレナは退屈そうに部屋を見渡した。
 無作法ではあるが部屋の中を散策。小さな冒険だ。
 積み上げられた箱の中にはアルコールや煙草。如何わしい雑誌が入っていた。机の上には何冊か本が置かれていた。読んだ事はないが哲学書の類だ。あの少尉は意外とインテリなのかもしれない。
 本をとってめくってみる。
 その時、しおり代わりに使っていた何かが落ちた。セレナはそれを拾い上げた。

 写真?

 そこに写っていたのはアカギを真ん中に両側に小さな子供たちだった。左は男の子で右が女の子。よく見ると目元がアカギに似ている。恐らく兄弟だろう。
 そしてセレナが意外に感じたのはアカギの表情だった。今まで接していた限り、無表情の印象が強かったアカギが写真の中の彼は満面の笑みだった。

 本当はこんな笑顔のできる人なんだ……

 その時、背後から物音がした!
 慌ててセレナは写真を本に挟むと机に戻した。
「少尉、いますかぁ?」
 部屋の中に入って来たのは若い連邦の兵士だった。東洋系のような顔立ちで背は高く人の良さそうな顔つきだ。
「少尉? 」
 部屋を見渡していた兵士は、中にいたセレナと目が合った。
「ジ、ジ、ジオンが!」
 ジオンの軍服を見て慌てる兵士にセレナは気まずそうに微笑んだ。


 
 

ガンダム戦記 白のプラトーン ⑩

 2稿目


―第501補給基地より数キロの場所―

 第501補給基地から出たトラックは一路、街を目指した。
 ジオンが撤退した後、占領されていた街は復興をし始めていた。それに大きく貢献しているのがアカギたちから横流しされる軍の物資だったのは間違いない。。特に医療物資が子供や年寄りの命を救った。
 パパは元々、犯罪組織と通じる地元の顔役で"パパ"の名前も愛称で本名は誰も知らない。
 戦争が始まってからは、その顔の広さと豊富な資金の力で徐々に市長的な仕事までこなすようになっていた。しかし本人にその自覚はなく、今までの裏の仕事が広がったくらいにしか考えていない。ただ市民には驚くほど"良心的な"価格で物資を提供していた。
 谷の境を越えるとき丘の向こうに何かが見えた。地形ではなく何かの人工物だ。
「停めろ!」
 パパは車を停めさせると双眼鏡でその物体を見た。
「ジオンの突入カプセルじゃないのか?」
 来る時は別のルートで気がつかなかったが今見えているのはジオンの大気圏突入カプセルだった。
 中にはジオンのモビルスーツが積み込まれているはずだ。ジオンの第一次地球降下作戦のときにはでは各地に大量の突入カプセルが降下していた。
 パパもその船体を久しぶりに見る。
「おい! 無線だ!アカギに連絡をつけろ」
 荒い口調のパパに運転席の部下が慌てて無線機の操作をする。
 しかし、周波数を基地の無線に合わせたもののノイズが酷く何も聞こえない。
「なんだ! 使い物にならんじゃないか」
「今朝からミノフスキー粒子の量が多いらしくてずっとこんなです」
 怒鳴るパパに部下が申し訳なさそうに言った。
「街には?」
「似たようなもんです」
「ちっ!」
 パパは舌打ちした。
「いいか、お前等はこまま街に戻って念のため皆を避難させるんだ」
 そう言うとパパは後ろについていた四輪駆動車に乗り込んだ。
「ボスは?」
「俺はアカギに知らせに行く!」
 パパを乗せた4輪駆動車は第501補給基地に向かって走り出した。
「おい、急げよ」
 運転する部下を急かす。
「あのカプセルは昨日までなかったはずだった。気に入らんな」
 緩いカーブを曲がると山壁から"一つ目"の巨人が姿を現した! モビルスーツの駆動音が山中に鳴り響く!
「ザクだ!」
 ジオン軍の主力モビルスーツの出現に驚くパパ。
 車はハンドルを切りながら急ブレーキをかけた! 車体が横滑りしていく
 MS-06ザクは、装備していた大口径のマシンガンで狙いをつけると車に向かって射撃を開始した!


 
 
 

 

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