真夜中の占い館で散歩
オリジナル小説の公開です
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月夜の晩に君と踊ろう①

キーラ0603アレンジ01

 誰も害さない限りにおいて、望むことを行え

 魔法を使う者に戒められた言葉である

 月夜の晩に君と踊ろう


1、街へお出かけ
                         (実は7稿目)

 晴天の青空に何かが飛んでいた。
 それはホウキに跨った魔法使い。高い空の上、彼女は水色に近いブルーの髪をなびかせる。
 青い髪の魔法使いは、街の上空までやってくると繁華街を探す為に降下した。
 が、その時だ。

「きゃっ!」

 途中、干してあった洗濯物にぶつかってしまう。
 視界を遮られた彼女が飛び込んだのは見知らぬ家の食卓だった。
 食事や食器を吹き飛ばして窓のから飛び去っていった突然の来訪者を住人たち唖然として見送った。

「ごめんなさーい!」

 後に残ったのは謝罪の声と散乱した食事の残骸だった。
 一方、魔女の方は、ようやく空飛ぶホウキの速度を落としていた。

「危ない、危ない……と」

 やがて繁華街の上空に辿り着いた魔女は目立たない路地裏を見つけてそこに着地した。
 ホウキから降りると辺りを見回す。
 魔女が通りに出ようとしたその時、背負ったバッグの中から突然、声がした。
 魔女が通りに出ようとしたその時、ホウキにぶら下げた麻袋の中から突然、声がした。
「キーラお~じょ~さ~ま。出してください~」
 キーラと呼びかけるその声は、どこか恨めしそうだ。
「あ、忘れてた」
 魔女はホウキから麻袋を下すと中を開けた。
 中には白い陶器製のポットがひとつ。
「な、なんて荒い飛び方なのですか! わたくし、どこかにぶつかって砕け散るかと思いましたぞ!」
 白いポットは魔女を見上げて文句を言った。
「なんとか着いたし、いいじゃない」
 魔女の方は反省の様子はない。
「目的地に着いた事が問題じゃないんです。行くまでの過程が酷いと言っているのです。しかも先ほど、あ、忘れてた、とか言っていませんでしたか?」
「え?」
「言ってましたよね? 忘れてたって」
「あ……いや」
 気まずそうに目をそらす魔女のキーラ。
「"忘れてた"って言ったでしょ」
「そ、空耳よ、空耳。ははは……」
 疑わしい目つきでキーラを見つめるポット。
「やーね、ポットのクセに空耳? 熱いお湯の入れ過ぎじゃない?」
 魔女は文句を言うポットをなだめた。
 え? ポットが喋るかって?
 このポットが喋るのは実は理由があった。
 この"喋る陶器"は、魔法で錬られた土で造られているからなのだ。
 そういった種類の陶器は"マジック・セラミック"と呼ばれ、この様な小さなポットから果ては巨大な巨人ゴーレムまでと種類が幅広い。
 大概は、魔法使いたちが腕試しに作ったものだが、この白いポットはキーラのお祖父ちゃんが作ったものだ。
 可愛い孫の世話役にと、造られたマジックセラミックだったが、何しろポットだ。やれる事には限界がある。キーラの役に立っているかは微妙なところだった。
 何しろ倒れると一人で起きれないのだから。
「まったく、無理についてきたくせに、文句ばっかり言わないでよ」
 キーラは、バッグから白いポットを取り出すと、そっと地面に置く。
「はい、これでいいでしょ?」
「どうもありがとうございます。お嬢様!」
 置かれた白いポットは感謝を示すかのように飛び跳ねた。。
「しかし、もう少し優しい飛び方をなさりませんといつかとんでもない事になりますよ。私、本当に砕け散るかと思いましたよ」
「いいじゃない。こうして無事に着いたんだから」
「いや、私、死にかけてますから……」
「はいはい」
 キーラは、うざったそうにそう言うと指をパチンと鳴らす。
 すると乗ってきた空飛ぶホウキが、あっというまにバッグに収まるほど小さくなった。
「はい、御苦労さま」
 そう言ってキーラは小さくなったホウキをバッグに入れた。
「お嬢様、もう少し魔法のバリエーションを増やしませんと。瞬間移動とかワープ航法とか……」
「うるさいわねえ、あんたも。しかもワープ航法って何? ジャンル違うし」
「じゃあ、どこでもドア」
「もっと、違うだろ!」
「いや、要するに私の言いたいのは一流の魔法使いになる為には、このような移動際しても瞬敏かつ繊細な……あ? お嬢様?」
 説教をするポットを無視してキーラはすたすたと表通りに向っていた。置いてかれたポットは慌てて小さな身体が跳ねながらキーラの後を追う。
「お嬢様ー!、お嬢……あっ」
 小石につまずいて倒れたポットは、起き上がれず再びジタバタした。
「む、無念」
 ポットの身体がひょいと持ち上げられた。
「ありがとうございます。キーラお嬢様! このご恩は一生、わすれません」
「大げさな……あんた、いっつも転がっては私に助け起こされてるじゃない」
「そうでした。でも、恩を感じるからこそ、私はこうしてキーラお嬢様にお仕えしているのですよ」
「はいはい、きりがないからいくよ」
 魔法使いのキーラは、"喋るポット"を抱えると賑やかな表通りに飛び出していった。




 
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月夜の晩に君と踊ろう②

2、お買い物は楽しい
(6稿目)



 森から出てきたばかりに魔女は行き交う人の多さに思わず目を止める。

「わお、やっぱ賑やかだねー」

 多くの魔法使いの中には人の生活圏から離れて暮らす者い。キーラもその一人だった。普段は人里離れた森の奥のお屋敷に暮らす魔法使いのキーラにとって、この人の多さは大いに同時に感激していた。
 理由は様々だが俗気の多い人間の世界より精霊も暮らす森深く、あるいは山奥の方が魔力を維持できる、というのが一般的な説だったが実際のところ真実かどうかは定かではない。
 なぜなら街に暮らす魔法使いも多いのだ。
 そういった魔法使いたちが魔法の力が消えうせたと聞いたことがない。結局のところ、森の奥深くに暮らすのは魔法使いの古き良き伝統というわけだ。
 キーラに関していえば代々受け継がれている屋敷が"偶々"森の深くにあったという理由だった。
 本人は賑やかな人間の街に、いつか引っ越したかったが、この喋るポット以下、周囲の者たちから猛反対にあっていて中々実行できずにいる。それが今日に限っては久しぶりに"森の屋敷"から出て、人間の街にやって来ていた。お買い物の為である。
 そんなわけだから今日は、テンションは上がりっぱなし!
「さーって、何を買おうかしら。"エルメズ"に"クッチ"……"コージ〝も新作出たのよね。うーん、楽しみ♪」
「お嬢様、買い物はいいのですが、無駄遣いはお止めになってください」
 キーラの手に持った白いポットがそう言った。
「必要ない物は極力、お買いにならないように」
 いい気分だったキーラにさらにポットは、そうクギを刺しす。街に入るまでの道のりで度々聞かされてきた文句だがキーラもさすがにうんざりしていた。
「うるさいわね。買う物は重要ではないわ。買う事が重要なのよ!」
「……だから、そーゆーのが無駄遣いなのでございます」
「無駄遣い上等!」
「お嬢様ぁ……」
 ポットは哀しげな目で訴えたがキーラは目を合わせない。買い物する気、満々だった。
 ふと、周りの視線にキーラは気付く。
「はっ!」
 考えてみれば抱えたポットに話しかける姿は少し……いや、かなり変だ!
 周りにはクスクスと笑う者、中には哀れんだ目で見る者もいる。決してマジックセラミック製の道具は一般的なものではない。存在を知らない者の方が多いわけだからポットを相手に会話しているキーラの行動は妙にしか見えない。
 キーラは顔を真っ赤にしてその場を早足で立ち去った。
「お嬢様? 聞いてます? お嬢様ーぁ」
 キーラはそのまま近くのショップへ飛び込んだ。


 数十分後……


「お買い上げ、ありがとうございまーす」
 店から出たキーラの肩には"エルメズ"のバッグがかかっていた。
「わたくしこの状態はとっても不満でございます……せっかく袋から出されたと思ったらこんどはバッグですか」
 キーラの持った"エルメズ"のバックの中からそう声がした。
「いいじゃない。エルメズよ、エルメズ。光栄に思いなさい。それに普通にポットに話しかけてたら私、イタイ人に見えちゃうでしょ?」
「しかし、これではわたくし、外が見えませんし私が痛いです」
「何よ! 散々、外出は嫌がってたくせに! いざ出るとそんな事言うわけ? このワガママポット、ワガポット」
「そんな造語、言われてもせっかく外に出たのですから好奇心ってものがふつふつと……あら? お嬢様? ぎゃ!」
 突然ポットの入ったバッグが道端に放り出された。横ではキーラが尻もちをついている。
「痛ったーい……どこ見てんのよ!」
 お尻をさすりながらキーラ怒鳴った。
「すみません、お嬢さん。道を急いでいたもので」
「何が急いでたよ! 前をちゃんと……」
 キーラに手を差し出したのはサラサラと流れるような茶髪に心を和ませるような優しい瞳の若者だった。
「ちゃんと……ちゃんと……」
 キーラの顔が赤くなる。
「ちゃんと見ていなかった私の方が悪いかも」
「いえ、僕の方こそ不注意でした。申し訳ありません」
 心からすまなそうなな顔をして手を差し出すその姿にキーラのハートがときめいた。

(ひゃーーーー!)

 キーラは差し出された若者の手をつかむと立ち上がった。
「本当に申し訳ありません。あなたの服を汚してしまって。それにバッグも……」
「あんなバッグ、大したものは入ってないからいいです」
「……お嬢様? それはもしかして私のことですか?」
 バッグがうごめいた。
「なんです?」
「い、いえ、空耳じゃないんですか?」
 そう言うとあっさりとキーラはポットの入ったバッグを放り投げた。かすかに叫び声が聞こてくる。
「あれ、あなたのでしょ? いいのですか?」
「ああ、大したものは入ってないからいいですよ。それより私、実はこの街に着いたばかりで様子がよくわからないんです。ご案内してくれたら嬉しいですわ♪」
「えっ? でも」
「あいたた……なんだかお尻がいたたた。あっ、ここってさっき転んだとこかも……」
 いきなり苦悶の表情で身体を曲げるキーラに若者は申し訳なさそうな顔をする。
「ああ、では少し案内しましょうか。お医者の所とか……」
「本当ですか? うれしい」
 キーラは無邪気に若者に飛びついた。
「あの、身体の方は?」
「治りました。急に」
「そ、それは、よかったですね……はは」

 なんていい人なんでしょう♪ それにイケメン。こんな人とフレンドリーになれたら最高……というかフレンドリーになって見せるわ! 必要以上に!

「あの、何故、拳を握り締めていらっしゃるのですか?」
「え? ああ……ははははは」
 キーラは慌てて手を後ろに隠して愛想笑いをした。
「ストレッチです。最近、身体が固くて」
「なんだか愉快な人ですね」
 若者は笑いながらそう言った。
「よ、よくそう言われます。チャームポイントってやつかな」
「ふふふ、では行きましょうか?」
「はい、行きましょう」
 照れながら顔を上げるキーラは若者の表情が変っているのに気がついた。
「どうしました?」
「すみません、お嬢さん。急用ができてしまったのでまた今度」
 そう言うと若者は逃げるようにその場を去った。
「え? え? なんで? なんで?」
 呆然と立ち尽くすキーラ。

 そんな流れだった? そんな流れ? 私って何かNGな事したぁ?

 頭の中で自問自答するキーラの肩を誰かが勢い良くぶつかった。
「痛っ!」
 ぶつかった男は何も返事もしなかった。そのまま先を行こうとしている。
「ちょっと!」
 キーラの文句を無視して先を行く男はどうやらただの住民ではない。軽装の甲冑を着込み、剣を腰に差したその姿はどうみても兵士だ。
「何よ! 謝ってもいいでしょ? ってゆーかここの街の人間は何故こうもぶつかるわけ……おわっ!」
 いきり立つキーラを押しのけるように横を同じ装備の男達が通り過ぎていく。皆、若者の後を追っていった。

 どういうこと?

 去っていく兵士たちを見送っていたキーラに前に放り投げたはずのバッグが差し出された。
「ありがと……ん?」
 バッグを差し出していたのは黒髪にバンダナを巻いた若い女だった。
「キーラじゃない?」
 彼女は笑顔で、そう声をかけてきた。
「クリスタル?」
「わーっ! キーラ! ひっさいぶり~ぃ♪」
「えー! 何? 魔法学校以来じゃない。元気ーぃ!」
 道の真ん中で二人は肩を抱き合ってはしゃいだ。
「お、お嬢様、なにやら、振り回されてるようですが一体、何が……うっ、目が回って……こぼれる、何かがこぼれる」
 嘆くバッグの中のポットを無視してお互いを懐かしむ二人だった。


 
 

月夜の晩に君と踊ろう③

3、再会
(5稿目)

「こんなところで何してるのよ」
「ちょっと買い物にね。あんたの方は? クリスタル」
「うん、仕事でね。臨時に店を開いたんだ。すぐそこだから寄ってく?」
 そい言ってクリスタルはキーラの手をひっぱった。
「ちょ、ちょっと、そんなにひっぱらなくても」
 二人は細い路地に入っていった。人気の無いところに怪しい看板が出ている。髑髏に蛇が巻きついたプレートを付けたその看板は如何わしさ満載だ。絶対、良くない物が売ってるに違いない。
「わーっ、これ見て。すっげー趣味悪っ」
「……ごめん、これがあたしの店」
「えっ!」
 クリスタルから、さっきまでの明るい笑顔は消えていた。しかも心なしか涙目。
「い、いや……よく見るとセンスがあるデザイン。これってモッズ系?」
「無理しなくていいよ。どうせ、趣味悪いもん……ぶつぶつ」
 文句を言いながらクリスタルが鍵を開け中に入るとずらりと怪しい品物が並んでいた。どうみても看板どおりの品物ばかり。
「わーっ! すごい妖気ね」
「まあね。全部、呪いとか魔除けの品物ばっかだから」
「"黒の魔法"の得意分野ね。クリスタルは黒の魔法の成績よかったから」
「小遣い稼ぎになるのよ、けっこう。キーラも黒の魔法を専攻しとけばよかったのに」
「あーダメダメ。あたし、呪い系な黒の魔法って何か暗いから合わないのよねー。なんかブードゥー系? 陰湿でネチネチしてて油っぽくてコレステロール高すぎってゆーか……うっ!」
 気がつくと隣でクリスタルが呪いグッズをいじりながら何か小声で言っている。
「どうせ、黒い魔法の得意な女の子なんて可愛くないもん……ぶつぶつ」
「い、いや、ほら! 私って不器用でしょ? だから複雑でむっずかしーな呪い系な黒の魔法って無理かなーって……もう少し簡単な医療系"白の魔法"や自然派な"青の魔法"の方が合ってるって感じ? でもスピリチュアルな緑の魔法は難しすぎるから……」
「いいよ、いいよ、無理しなくって。ってゆーか、どうせブードゥー系だしぃ……。"人を呪わば穴二つ"。昔の人はいい事言うわ、やっぱ」
「クリス! ほっんと! ごみん!」
 クリスタルの背中にしがみつくキーラ。
「いっつも余計な事ばっか言ってるおバカな私を許して! だから呪わないで~っ……ん?」
 キーラは目前の壁に掛かる毛皮のコートに目がとまった。
「いやーん♪ カワイ過ぎ~!」
 コートを手に取ろうとしたキーラの手首をクリスタルが、ガシッと掴んだ。
「だめよ!」
 真剣なクリスタルの顔にちょっと引くキーラ。
「キーラ、これは呪いの毛皮なんだから迂闊に手にとってはだめよ」
「これが? こんなにカワイイのに~♪」
 クリスタルは首を振った。
「見かけに騙されちゃだめ。結構、傑作なんだから、これ」
「どうなるの?」
「これを着るとね……」
 クリスタルが言いかけたその時、外で叫び声が聞こえた。
 顔を見合わせるキーラとクリスタル。
 さらに叫び声が聞こえる。
「何かしら」
「最近、多いのよね。おかしな騒ぎ……あ? キーラ」
 気になって外に飛び出したキーラは声のする方を見やった。クリスタルがドアから顔を出してキーラを呼ぶ。
「ほっときなさいよ! キーラ。私たちには関係ないんだから」
「でもさぁ……」
 また、怒鳴り声と悲鳴が聞こえた。キーラは我慢できず、声の方に走った。
「もう……相変わらずねぇ、あのコは」
 クリスタルは呆れ顔でキーラを見送った。


 
 

月夜の晩に君と踊ろう④

4、余計な事に口をだす
(5稿目)

 騒ぎの場所は惨劇と化していた。
 巨大な爪が兵士の背中を切り裂いく!
「大丈夫か」
 叫びを上げて倒れた兵士を別の兵士が助け起こした。
「俺たちの装備では奴は倒せない」
 力なくそう言う兵士。
 他の兵士たちは巨大な爪の主を取り囲んでいた。
「お、おのれ」
 剣を構える兵士たちの前に立ち塞がるのは全身を茶色い毛に覆われた二本足の獣だった。牙をむき出しにして目は、血走り、怒りに満ちている。
「この、ライカンスロープめ!」
 ライカンスロープは、切りかかった兵士たちを容易くつかむと、いとも簡単に殴り飛ばしていった。次々と数メートル先の壁にたたきつけられていく兵士たち。
 狼の化け物ライカンは牙をむき出し生き残った兵士たちを睨みつけた。
 さっきまで取り囲んでいたはずの兵士たちは、戦力の減少で、いつの間にか一ヶ所に集まってライカンの攻撃に備えていた。
 後ろは壁だ。たった一匹に追い詰めれていた兵士たちは震えながら剣を構える。
「く、くるな! ライカンめ!」
 そんな言葉を無視してライカンは兵士達に飛びかかる!
 その時、ライカンの前を弓形型の剣が回転しながら飛んできた。
「ガウ?」
 とっさに身を引いたライカンは剣が飛んできた方向を睨みつけるた
 兵士たちが振り向くとそこにいたのは空色の髪をした蒼い服の少女だった。
 それは駆けつけたキーラだ
「はい! "おイタ"はそこまでよ」
 キーラは剣につなげてあった紐をひぱった。
 剣は突き刺さった地面から抜けると再びライカンの身体をかすめた。身をかがめて奇妙な剣を避けたライカンは唸り声てキーラを睨みつけた。
 宙を舞い戻ってきた剣を掴んだキーラは、独特な構えをとるとライカンを指差した。
「来なよ、ワンちゃん」
 人差し指を「おいでおいで」とするキーラ。
 怒り狂い飛びかかるライカン。
 突進してくるライカンを軽々と避けたキーラは振り向き様に怪物ライカンの腕を切った!
 傷口から鮮血が飛び散る! ライカンは痛みと怒りで恐ろしい雄叫びを上げた!
 その時、道の先から大勢の声がした。どうやら兵士たちの仲間らしい。
「いたぞ! ライカンだ!」
「こっちだ! 急げ!」
 襲われた兵士たちの仲間が助けに駆けつけたのだ。
 それに気がついたライカンはキーラに反撃するのを諦め、屋根い飛び上がって逃げた。
「待ちなさい!」
 逃げるライカンの後を追おうとしたキーラだったが周りを応援に来た兵士に取り囲まれてしまう。
「ちょっと、ちょっと……!」
 剣先がキーラの鼻先に突きつけられる。
「武器を捨てろ!」
「追うのはあっちでしょ?」
 怪物ライカンスロープの飛び去った方向を指差して抗議するキーラだったが兵士たちは無視して剣を向けた。
「ま、まて! その人は違う!」
 足を引きずった血まみれの兵士が取り囲む兵士たちの中に割って入った。
「その人は俺たちをライカンから助けてくれたんだ。敵じゃない。武器を下げろ!」
 それを聞いた兵士達は顔を見合せた後、剣がゆっくりと下げられていく。
 ようやく誤解は解けたようだった。


 
 

月夜の晩に君と踊ろう⑤

無題2ガウス
背景画像を「月とサカナ」様よりお借りしました。


5、王様と姫様と私(4稿目)


「うちの兵隊を救ってくれて感謝する」

 兵士を救ったキーラは、礼の為に城に連れて行かれていた。
 謁見室に招かれ王様の前に立ったキーラは照れくさそうに頭を掻いた。
「別に大したことじゃないですよ。えへへ」
「いや、身の危険をかえりみずあの怪物ライカンの前に立った勇気には感服するばかり。皆の者! 拍手!」
 王様の合図でその場にいた家臣たちが一斉に手を叩き始めた。
 でもちょっとわざとらしい。
「そ、そうですかぁ?」
 そんなわざとらしい拍手にも照れくさそうに愛想笑いをするキーラだった。
「……ところで、そなた、不思議な技を使うそうだな」
 王様が話しを始めると拍手がピタリと止まった。
「不思議って……まあ、たしかに変わってるかもしれないけど。我が家に代々伝わる技でして」
「その腕を見込んで頼みがあるのだが、どうだろう?」
「頼み?」
 突然の申し出に小首をかしげるキーラ。
「姫をここに」
 王様の合図で衛兵がドアを開くと美しい少女が現われた。
 雪のように白い肌にキーラは思わずどこの化粧水を使っているのか聞こうとしてしまったくらいだ。
 少女はゆっくりと絨毯の上を進むと王様の横に立った。
「一人娘のジュエールだ。そなたが立ち向かったライカンは、実はこの姫を狙っておるのだ。今回は撃退したものの、いつまた襲撃があるやもしれん。そこでキーラ殿、そなたに姫の警護を頼みたいのだ」
 王様の横にいた姫様はキーラを見ると軽く会釈した。
「でもなあ……あたし買い物に来ただけだしぃーっ」
「どんな条件でも飲もうじゃないか。何でも言うがいい」
 その言葉にキーラの眼が輝く。
「え? どんな事でもいいの?」



 夜になった――

 結局、ブランド品のお土産を条件に警護を承諾したキーラはお姫さまの部屋についていった。
「きゃー! 素敵!」
 キーラは部屋の中を見渡してそう言った。高級そうな飾りや小物が沢山置いてある。
「そうですか?」
 姫様は大したことはなさそうに答えるとベッドの上に腰掛けた。
「あなた剣士?」
「あん? 違う違う」
 キーラは手を横に振って否定した。
「あの剣法、本当は、ダイエットの為に習っただけ。本業はこっち」
 そう言ってキーラは指をくるくる回した。
「あっ……」
 ジュエールはキーラの指先を見て驚いた。
 指先の周りに霧のようなものが現われ何かを形作った。時々光が反射して小さな光点が点滅している。そしてそれは小さなバラの形になっていった。
 ジュエールはキーラの指先で行われる小さなショーに見とれる。
「わあぁ……」
 子供の様に目を輝かせるジュエール。
 キーラが手を下ろすと水蒸気で、できたバラの花がパッと四散した。
「すごーい! すごーい!」
 キーラは、まるでショーを終えた大道芸人かの様に手を広げて大きく会釈した。
「あなた、魔法使い?」
 キーラは、それに肩をすくめて答えた。
「魔法使いね! ふふふ、魔法使いが私の護衛。素敵!」
 謁見の間からここまで綺麗だがツンとしていた印象だったジュエールだが、今は小さな子供のように目を輝かせている。
「ねえ、キーラ様。私に魔法を教えて下さらない?」
 突然の申し出にキーラは唖然とする。
「はあ?」
「いいでしょ? お姉さま」
「お、お姉さまぁ?」
 その言葉はさらにキーラの唖然とさせた。
「今日から私はあなたの弟子です。呼び捨てする訳にはまいりません」
「だったら先生とか師匠とかじゃん。あっマスターでもいいわね」
「でも、キーラさんって私と歳も近そうだし先生や師匠じゃ、おかしい気がして」
 言われてみれば師匠という柄でもなく、先生と呼ばれるのも照れくさい。
「す、好きに呼びなよ」
 キーラは照れながらそう言った。
「じゃあ、魔法を教えてくださるのね」
「あっ……そ、それは……その」
 成り行きにまかされっぱなしのキーラであった。



 
 

月夜の晩に君と踊ろう⑥

6、月の下での悩みごと
(5稿目)



 キーラが城に来て数日が過ぎていた。
 ジュエール姫はキーラに引っつきぱなしだ。
 本来、ジュエールのボディガードはキーラのはずだったが今では逆の様な感じになっていた。はたから見ると本当の姉妹のような雰囲気だ。
「まあ、従順だからガードがしやすいけど」
 多少、うっとうしさも感じる事もあったがキーラも次第にジュエールの事が可愛く思え始めていた。

 だが、ある満月の夜の事――

「ねえ、キーラ姉さま。お姉さまは恋をした事はありますか?」

 その夜、ジュエールは真剣な顔でキーラに問いかけた。
「恋?」
 真顔なジェールも珍しい。そんな事を思いながらキーラは答えた。
「ああ、恋ね、そんなのいつもよ……この前も"運命の人だ!"って思える人に市場で出会ってね」
「本当ですか?」
 ジュエールは興味津々で身を乗り出していく。
「でも、邪魔が入って……いつも報われないのよねぇ」
 キーラはため息をついた。
「お姉さまもですか?」
「え? あんたも?」
「ええ、お父様が彼と会うのも許してくれないのです」
「まあ、ひどい!」
「もうずっと彼と会ってません。そしたらこの"ライカン騒ぎ"でしょ? ますます会えなくなって……」
 ジュエールは哀しそうに目を伏せた。
 その様子がキーラにはとても気の毒に思えた。
「そっかぁ……あんたもいろいろあるんだね」
 うつむいたままのジューエル。
 ブルーな雰囲気になる部屋の中、すっかりジュエールに同情したキーラは何とかしてやりたいと思っていた。
「心配しないでよ! ジュエール」
 キーラはジュエールの肩をポンと叩いた。
「ライカンの件は私が早く片付けるから、そしたら一緒に彼のとこに行こ?」
「ほんとですか?」
「うん。王様には私も一緒に頼んであげるから」
「ありがとう! お姉さま!」
 キーラに飛びつくジュエール。
「でも、なぜ一緒に?」
「え? そ、それは……その……」
 ジュエールの彼の友だちを紹介してもらえる?
 と……喉から出かかったキーラだったが僅かに姿を出したプライドが、ぐっと堪えさせるのであった。

 その時、鐘の音が鳴り響いた!
「なんでしょう? こんな鐘の音は聞いた事がないです」
「ふふふ……かかったみたいね」
 鐘の音を聞いたキーラはニヤリと微笑んだ。
「お姉さま?」
 不思議そうに声をかけるジュエール。
「実はね。ライカン用の罠を仕掛けておいたのよ。これは獲物が罠に掛かった合図」
 そう言うとキーラはすっくと立ち上がった。その表情は今までになく真剣だ。
「さあ、ちょっと片付けてくるわ」
 そう言い残すとキーラは部屋から飛び出していった。


 
 

月夜の晩に君と踊ろう⑦

無題-02

7、狼男の襲撃
(5稿目)


 城に忍び込んだライカンは匂いをたどってある部屋に辿り着いた。
 中に入ると長椅子にジュエールが座っていた。ライカンは静かにジュエールに近づいていく。
 だが、ジュエールは恐ろしいライカンが近寄ってくるというのに表情ひとつ変えずに長椅子に座ったままだった。
 ライカンがジュエールの手を伸ばしたときだった。その姿は霧のように消え去った。
 同時に背後のドアが閉まり大きな鐘の音が鳴り響く!

 ( 罠だ! )

 ライカンは部屋から逃げ出そうとしたが部屋のドアはどういうわけか消えてしまった。
「はっはははは! 罠に掛かったわね? 子犬ちゃん!」
 どこからか声がした。ライカンは上を見上げた。天井は消え去り、夜空が見える。壁は城壁となり、その上にはタイマツを持った兵士達が立ち並んでいた。
 その中に一人、水色の髪の女が腕を組んで立っている。見覚えのある女だ。
「ジュエールの匂いも姿も全ては私の作り出した幻影。見事に引っかかってくれたわね。ライカンスロープ!」
 兵士達がボウガンを構えた。これではいくらタフなライカンでもひとたまりも無いだろう。
「構えぃ!」
 兵士たちの隊長が手を上げた。
 悔しげに唸るライカン。
 その時、背後の隠し扉が開いた。
「あら?」
「だ、誰だ! せっかくの仕掛けを動かしたのは!」
 突然のアクシデントに隊長が怒鳴った!
 ライカンは素早く隠し扉に飛び込んだ。
「撃て! 撃て!」
 隊長は慌てて命令したがボウガンから放たれた矢はライカンを外し地面に突き刺さっていく。
「追え! 追うんだ!」
 兵士達は城壁から降りてライカンを追った。
「もーっ! せっかく、仕込んだのにぃ!」
 城壁に一人残ったキーラはしゃがみこんでぼやいた。
 その時、視界に誰かが入った。ライカンの去った罠の跡に誰かいる。
 ジュエールだ。
 しばらくその場にたたずんでいたジュエールは足元の何かを拾い上げた。
「ん? あのコ、何してるんだろう? 」
 ジュエールは顔を上げた。慌てて身を隠すキーラ。しかしジュエールの見たのは夜空の月だった。
 満月の柔らかい光がジュエールを美しく照らし出していた……

 
 

月夜の晩に君と踊ろう⑧

8、目の前の事実
(4稿目)


 誰もいない廊下を見計らってジュエールは寝室に急いでいた。
 衛兵達は城に侵入したライカン騒ぎで誰もいない。ジュエールは寝室に飛び込むと慌てて扉を閉めた。そして扉に寄りかかりながら安堵の息を吐いたその時だった。
「一体、どういうこと?」
 部屋の奥の暗闇からいきなり声がした。
 はっとし声の方を見るジュエール。
 雲が流れ月の明かりが部屋の奥で椅子に座るキーラを照らしだした。
「キーラお姉さま。ライカンを追っていたのではなにのですか?」
 キーラは右手の人差指を横に振ってみせた。
「それは城の兵士さんたちに任せたわ」
 そう言って椅子から立ち上がった。キーラは今度は窓辺に寄りかかった。
「ところでジュエール。あんた、今までどこに行っていたの?」
 その言葉に焦るジュエール。
「城内が騒がしかったもので様子を見に……」
「分かってるのよ、ジュエール」
 キーラは窓辺から離れるとジュエールの目の前に立った。
「何のことです? キーラ姉さま」
「あんた、ライカンを逃がしたよね。自分を狙うライカンをさ。どういう事なの? 分けわかんないわ」
 キーラはそう言って肩をすくめる。
「そ、それは……」
 ジュエールは観念したように口を開いた。
「実は、これを見つけたんです」
 ジュエールはペンダントを見せた。
「何? それ」
 木に凝った彫り込みを施したものだがそれ程、高価にも見えない。
「それ、私が彫ったの。彼の為に」
 ジュエールはうつむきながらそう言った。
「彼へのプレゼント?」
 頷くジュエール。
「これは私が彼に贈ったもの。それを……それをあのライカンが身に着けていたんです」
  キーラは眉をしかめた。
「ってことはあんたの彼氏ってライカンスロープだったってこと? なんで?」
「わかりません! わからないけど……あの時は何故か、ライカンを放っておけなかった」
 ジュエールは泣き出してしまう。
 どうやら、このお姫様の言ってる事は本当らしい。目の前の事実に混乱してしまっているようだ。
「もういいわ」
 キーラはそう言って優しくジュエールを抱き寄せた。
「いいコだから泣かないで。ね?」
 優しくジュエールの頭を撫でるキーラ。その時、ふとペンダントが視界に入る。何気に見つめていたペンダントに何かが憑いているのに気がついた。
「ジュエール、ちょっと貸してくれない?」
 そう言ってキーラはペンダントを手にとってよく見た。
 ペンダントとチェーンの継ぎ目にわずかにライカンの体毛が少しついていた。キーラはそれをつまむと灯りにかざして見つめた。
「これって……」
 キーラの表情が真剣になる。
「どうしました?」
 ジュエールが不思議そうにキーラの顔を覗き込む。
「うーん……どうやらこの件には何か陰謀がありそうね」
 そう言ってにやりと笑うキーラ。
 ジュエールにはその意味が分からなかった。
「どういうことです?」
「それは……」
 その時、誰かがドアをノックした。
「誰?」
 ジュエールの問いかけにドア越しに返事が返ってくる。
「御休みのところ申し訳ありません。王様より伝言です」
「なんです?」
「はい、城内を騒がしたライカンをついに捕らえたとの事」
 その言葉にキーラとジュエールは顔を見合わせた。




 
 

月夜の晩に君と踊ろう⑨

9、王様の満足
(4稿目)


「囚えたライカンには頑丈な鎖を足と手につないだ。もう、滅多な事では逃げられん」
 そう言った王様は満足そうな笑みを浮かべていた。
「キーラ殿。ようやくライカンめを捕らえた。これで安心して寝れるというものじゃよ」
 キーラとジェールは王様の部屋に来ていた。ライカンがどうなったかを聞く為だ。ライカンは捕まり王様はずっと上機嫌だ。
「ライカンをどうするおつもりで?」
「散々、騒ぎを起こした報いじゃ。大体、獣のくせに姫を襲おうとしたのも許せん! 明日、公開処刑をおこなってやるわ」
 王様は冷酷な笑みを浮かべる。実の父親のその様子に不快な気持ちを募らせるジュエールだった。
 キーラはジュエールの肩を叩いた。振り向くジュエールに頷いてみせた。
(私にまかせて)
「キーラさん……」
 キーラは王様に近寄った。
「ん? どうした? キーラ殿」
「王様、私はこのライカンと一戦交えましたが決着がついておりません。つきましては刑の執行を私にお願いできないでしょうか?」
「そなたが処刑を?」
 驚く王様にキーラは得意げに武器を取り出した。
「はい! この屈辱は奴の血を見ないと収まりません! 公開処刑の場であいつの首を××××(※自主規制)して手足を××××(※自主規制)してやらないと燃えたぎった怒りの炎は収まりません! あー思い出したら! マジムカつく!」
 妙にテンションの高いキーラに王様も引き気味だ。
「むう……し、少々過激だがキーラ殿の気持ちはよく分かった。だが、相手は凶暴なライカンスロープ。対決するそなたの命も危険になるぞ」
 キーラは取り出した武器を指先でくるりと回すと壁の傍に並ぶ甲冑に投げつけた。
 上下に刃を取り付けた奇妙な鎌状のその武器は、回転しながら甲冑の傍を通り過ぎた後、キーラの手元に戻ってきた。
「おっと」
 キーラがそれを舞うように身体を回して受け止めてみせた。
「おおおっ」
 受け止めた後、キーラが指を鳴らすと立ち並ぶ甲冑が次々と真っ二つになっていく。
 驚く王様の目の前でキーラは ニヤリと笑った。
「ほう……やるではないか」
 キーラのその技に感心する王様。
「まだまだ見せる剣技もございますが」
 そう言ってキーラをウインクしてみせた。
「よろしい。そなたの剣さばきとやらも見てみたいし良い余興にもなる。公開処刑での処刑人を許す。好きにやってよいぞ」
 部屋中がざわめきだした。口々にキーラの無謀さを囁き合う。
「感謝しいたします」
 キーラはわざとらしいくらい、恭しく頭を下げた。
「キーラ姉さま……」
 心配げにするジェールを安心させるかのようににキーラはウインクして見せた。
「大丈夫、私に任せて」



 
 

月夜の晩に君と踊ろう⑪

11、本当の答え
(5稿目)


「ブリリアン!」
 ジュエールは展覧場から飛び降りると若者に駆け寄った。
「ジュエールなのかい?」
 倒れそうになるブリリアンをジュエールは寸でのところで抱き止めた。
「しっかりして! ブリリアン」
 キーラは王様を指差した!
「王様、あなたはこの若者にこの"呪いのコート"を言葉巧みに着させましたね」
「な、なに証拠に」
 その時だ!
「証拠ならあるよ!」
 群衆の中から大きな声がした。
 多くの人が注目する中、立ち上がったのは、キーラの友だちで魔法使いのクリスタルだった。
「うちの店からそれ買ったでしょ」
 その言葉に王様の顔つきが変わる。
「証拠がここに……」
 クリスタルはそう言うとポケットから小さな紙切れを取り出した。
「領収書の控えがちゃんと残ってるわ! ほら!」
 クリスタルは小さな紙切れをひらひらさせてみせる。
「あっ……」
 それを見て固まる王様。
「あなたは、ジュエールと身分の低いこの若者の交際を認めなかった。そこで彼に狼の呪いをかけ、ブリリアンをライカン・スロープに変身させた! 全てはジュエールに会わせない為!」
「お父様、本当なのですか?」
 驚きの表情で王様を見るジュエール。
 椅子にぐったりと腰掛ける王様は顔を押さえた。
「けれど、彼には獣に姿を変えても愛する人への想いが残っていた。それがこのペンダント。ライカンになっても彼はこれを身につけていた。ジュエールもその事を無意識に感じ取り、ライカンを助けたのよ!」
 キーラはペンダントをかざした。
「王様! 愛し合う二人を無理に引き裂くことなど邪推にすぎません。人生経験の長いあなたからみればジュエールの行動はまだまだ危なっかしく思えるのかもしれない……でも、それに失敗したとしてもそれは彼女の人生じゃありませんか!」
「おおーぉぉ……」
「よく言った! ねーちゃん!」
「オメーの言うとおりだ!」
 キーラの訴えに群衆から賛同の歓声が湧く。
「え?(なんか注目されてる? 私)」

 すっかりテンションの下がった王様は静かに口を開いた。
「キーラ殿……たしかに、そなたの言うとおりだ。わしはジュエールがその若者と好き合うことが気に入らずに、その呪いのコートを買った。計画は上手くいっていた。だが獣になってもジュエールの事を忘れずに会いにくるのは誤算だったな」
 王様は、そう言ってがっくりとうなだれる。
「愛し合う者たちの仲を引き裂こうとするのは愚かなことだったかもしれぬな……許してくれ。ジュエール」
「父上……」
 怒りの言葉を吐き出そうとするジュエールを若者が止めた。
「お父上は、あなたを心配してこのような事をしたのです。俺も大変な思いをしましたが王様の気持ちを考えると決して憎いとは思い切れません」
「ブリリアン……」
 自分を諭すブリリアンを見つめるジュエール。
 傍に立つキーラはニヤリと笑う。
「いい奴ね、あんた。ジュエールが好きになるのが分かる気がするわ」
 若者は照れくさそうに前に垂れ下がった髪をかきあげた。
「あーっ! あんたはぁ!」
 その顔を見てキーラは目を丸くした。
「お久しぶりです。あなたは確か市場でぶつかった人ですよね?」
「あ……その、覚えてらしたなんて……ははは」
 キーラの目が点になった。
 それに気付いたジュエールが尋ねる。
「キーラ姉さまの"運命の人"ってもしかして……」
「ち、ちがうわよ。別の人よ、別! もっと背が高くて髪も長くて……」
 焦りながら誤魔化すキーラの複雑な胸の内を誰も知る者はいない。

 新しい恋を見つけてやるんだ!

 人知れずそう心に誓うキーラだった。








 そこは薄暗いクリスタルの店にの中。
 ずらりと並ぶ邪悪な呪いのアイテムの中にポットはいた。
「……お嬢様? もしや私をお忘れになってる事はございませんよね」
 怪しい品物の中に囲まれたポットは一人寂しく呟いていた。


 「月夜の晩に君と踊ろう」おわり



 
 
 

 

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