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真夜中の占い館で散歩
オリジナル小説の公開です
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真夜中の占い館で散歩①

占い館表紙356×356logo-15

それは他愛のない恋占いのはずだった。
片思いに悩む少年がある日、占い館に立ち寄った。
そこにいたのは、ちょっぴり調子のいい不思議な占い師、紗璃。
占いのおかげで片想いの 相手といい関係になったのだが、思わぬオマケが付いてくる事に……。
真夏の夜に起こる、すこーしダークなショートストーリー。
さらにいろいろ書き足した改訂版で復活です。




1、ある日のこと

「なんだよ! くそっ!」
 腹立ち紛れに黄色と赤のボタンが叩かれた。
「ほら、代われよ啓太。俺がリベンジしてやるって」
 髪の毛を茶色に染めた少年が不服そうな顔でテーブルゲームの席から立ち上がる。それと入れ替わる様に友人は席に座ると硬貨を投入口に入れてゲームを開始していた。
『 レディー、ゴー!』
 ゲーム機がスタートを告げる。その様子をぼんやり眺めなていた時、宅間啓太は視界の中の見慣れないアトラクションに気がついた。
「占い館……"紗璃"……さ、さる?」
 隣の友達は、ゲームに熱中したまま。優勢の様だからまだゲームは続く筈だ。
 ゲームに夢中な連れを残し、啓太、はこっそりその場を離れ、その奇妙なアトラクションの方へ向った。

 テントは葵色の下地に星型マークがちりばめられたシートで作られていた。

 何でも占います。―占い館 紗璃―

 入り口らしきマジックで手書きされたボードがかかっているが、あまりにも安っぽい。
 啓太は少し迷っていたが、意を決して中に入っていった。
「すみませーん……」
 中へ入ると中では長髪の若い女がカップ麺の麺を口に入れる瞬間だった。
 目が合ったまましばらく沈黙が続く。
「あの……で直します」
「ま、まって!」
 出て行こうとする啓太を即座に呼び止めた女は、カップ麺を急いでテーブルの下に隠すと何事もなかった様に微笑んだ。
「いらっしゃいませ! 」
「いいんですか? 食事中だったんじゃ……」
「はいはい。ちょっとお腹が空いてたんで。でもいいです! お客様優先だし! 当、占い館では、常にお客様の事を第一に考えてますんで♪ ようこそ、占い館"紗璃"(さり)へ! 私の名前は、紗璃と申します」
 女は、わざとらしいくらい満々の笑みを浮かべた。
「"さる"じゃないんだ……」
「はい? 何か言いました?」
「い、いえ、なんでもないです。あの、占い、いいですか?」
「もちろん! だって占い館だし。ささ、おかけくださいな」
 そう言って紗璃が手で指す椅子に啓太は座った。
「さて! 何を占いましょうか」
 紗璃と名乗る女は気合をいれたかったのかネイルアートを施した指をポキポキと鳴らしてみせる。
 なんだか思っていたイメージと違うな、と啓太は思った。
「あ? えっと……あの、進路の事を」
「ああ、進路ね。見たところ学生さんよね。多いんですよ。学生さんの進路相談。先生じゃないっつーの、うちは」
 啓太は気まずそうに愛想笑いをした。
「あっ……はははは、いえ、ほんの冗談だから聞かなかった事にしてね。その次に多いのは恋の悩みなんだけど」
「えっ?」
 啓太はそのキーワードにドキっとする。
 実は彼の占いして欲しかったのは、むしろそっちだったのだから。
 占い師の紗璃も啓太の様子に気がついた。
「ん? 何か?」
「い、いえ。なんでもないです」
「あっそう。では占います」
 紗璃はカードを取り出すとそれをシャッフルしだした。
( タロットカードじゃないんだな…… )
 啓太がそう思った途端だった。
「ん……タロットカードは雰囲気がでるんだけど、好みじゃなくてね」
 紗璃は啓太の考えが分かるかの様にそう言った。
「え?」
「要するに、どのカードにどんな意味を持たせるかは占いする者次第ってことだと思うんですよ。カードはあくまでも選択すべき未来を感知する為の手段に過ぎないと思うんで」
 そう言ってにこりと笑う紗璃。
「あのぉ……すみません」
「なんでしょう?」
「なんで僕の思っていた事が分かったの?」
 不思議そうに言う啓太に紗璃は悪戯っぽくほほ笑む。
「いや、ずっとカード見てたから、かなーって思ってね」
 涼しい顔でそう言う紗璃は、カードをシャッフルし続ける。
 啓太は不思議な思いに囚われながらもカードを切る紗璃を見た。

 よく見るとキレイな人だよなぁ……ちょっと変だけど。

 啓太の視線に気がついた紗璃は、にこりと笑いかけた。
 少し恥かしくなり視線をそむける啓太。
「ねえ、あなた、本当は別の事を占って欲しいんじゃない?」
 突然の、その言葉にドキリとする啓太。
「どうなの?」
 紗璃という占い師は啓太の心を見透かしてるようにそう言った。
「は、はい実は……あの好きな娘の事について、ちょっと」
 照れながらそう言う啓太を見て紗璃は目を輝かす。
「好きな女の子? そう!そう! そういう楽しい占いじゃないとねぇ。だったら最初からそう言えば良いじゃない。もう! それってもしかした思春期って奴?」
「はあ、すみません」
 啓太は申し訳なさそうに頭を下げる。
「いいって、いいって。じゃあ、そっちを占うということで」
「お願いします」
 照れくさそうに小さな声で頷く啓太。
 紗璃はカードを揃え直した後、再びカードを切り始めた。やがて一枚を引き抜くとテーブルの上に置いた。


 
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真夜中の占い館で散歩②

2、占いますよ


 紗璃はテーブルに置かれたカードを一枚をひっくり返した。
「ああ、あなた、まだ気持ちを伝えられずにいるね」
 トランプのカードを見た紗璃は、あっさりとそう言った。
「ええ、まあ……」
 さらに2枚をめくる。
「うーん……その相手ってちょっと大人しめな女の子かな? 相性はよさそうだよね」
「え! そ、そうなんですか?」
 紗璃の言葉に啓太は機嫌をよくした。
 次に三枚がめくられたとき、その思いは消し飛んだ。カードを見た紗璃の表情が眉をしかめているからだ。
「あのぉ……すみません、それって、何か、よくないことですか?」
「いや、まあ、なんってゆーか」
 言葉を濁す返答に啓太に不安感が湧き上がる。
 さらに四枚目がめくられた。
「うわっ、やべっ!」
 その言葉に啓太は焦る。
「えっ! (きゃ、客の前でそんな言い方?)」
 紗璃はカードを置くとため息をついた。
「け、結果どうでした?」
「まあ、女のコはこの娘だけじゃないからさ。君まだ若いんだし」
「えーっ !( 回りくどい様で、すっごくストレートな言い方してるよ、この人!)」
 がっくりとうなだれる啓太。
「いいじゃん。次のコ見つければ。ほら、君ってよく見るとイケメン入ってるし。カトゥー○のナントカくんに似てるって言われたことない?」
「言われませんよ。それに誰ですか? そのナントカくんって」
「いや、その、あれよ……ごめん! わたし、実はハリウッド系が好きなの。ジャ○ーズ系って詳しくないし。ちなみにジョニー・○ップ様のファンです」
「いや、あんたの好み聞いてないし」
「と、とにかく、人生にはいろんな分岐点があるものなのよ。恋も同じ。塩味もあれば味噌味もあるわ。選べる味は、まだまだあるし」
「カップ麺、好きなんですね……でも説得力無いです」
「うっ!」 紗璃は一瞬言葉に詰まる。
「どうもありがとうございました。ちょっとムカついたけど占い師さんなりに励ましてくれてるみたいだし、少し気持ちが楽になりました。でも、もういいです。もうすぐ夏休みだけどめちゃ暗く過ごしますから」
「君、なんか、罪悪感を煽る言い方よね」
 啓太は代金をテーブルに置くとテントから出て行こうとした。
 その時だ。
「待って!」
 テントの外にも洩れそうな大声で啓太は呼び止められた。
「君、どうしてもこのコと仲良くしたいの?」
「え?」
「どーなのよ?」
 紗璃の問いかけに啓太は大きく頷いた。
「うーんとねぇ……付き合えない方法が無い訳じゃないんだよね」
「本当に?」
「でも、けっこー覚悟いるんだよね。この方法は」
「がんばります!」
 紗璃は立ち上がると啓太の傍に寄って肩を叩いた。
「よっしゃ! 少年。気に入った。純愛最高! 思春期最高! ビバっ! ビバリーヒルズ高校白書!」
(なんか変ったノリをする人だな……)
 紗璃は、啓太の視線に気づき少し顔を赤らめ咳払いした。
「と、とにかく無理めな、あなたの恋を成就させる方法を教えてあげる」
「あの、無理めって言わないでくださいよ」
「ああ、ごめん」
 紗璃はカードをシャッフルし始めた。先程とはまるで違う見事なカード捌きだ。まるでマジシャンの様だった。そのテクニックをを見せられた時、啓太も否が応でも期待が高まる。
「あっ、そうだった」
 思い出すようにそう口走ると紗璃はカードさばきを途中で止めて啓太の目の前に手を差し出した。
「別料金になります」
「え?」
「いや、だから別料金」
「はあ……いいですけど」
 啓太は、お金を差し出す紗璃の手に置いた。
「ふふふ、何かを得るには必ず代価が必要になるのよ。それが世間の仕組み。覚えておくといいわ、少年」
 そう言うと紗璃はカードのシャッフルを再開した。
「さあ、いくわよ」
 最初は見事なテクニックだと思っていた啓太だったがカードは、次第に不思議な動きをしていく。
 まるで生きているかの様なカードたちの動きに啓太は不思議な感覚に陥っていた。
「運命には様々な分岐点がある。その組み合わせは無数。今、ベストな組み合わせを算出してるとこ」
 しばらくしてからシャッフルを止めた紗璃は啓太にカードを差し出した。
「そして、思い描く人生を選ぶのはあなたの意思。彼女の事を思いながらカードを一枚取ってみて」
 緊張して指をカードに伸ばす啓太。
「"考えるな。感じろ" 」
「え?」
「ブルース・リーよ。知ってる? ジークンドーの創設者」
 そう言って紗璃はウインクしてみせた。紗璃の妙な言葉に少しリラックスした啓太は言われた通り一枚を引いた。
「裏は見ないでね。はい、こっちに渡して」
 紗璃はカードを受け取るとじっとまぶたも閉じずにじっと見つめた。その後、何枚かをカードの束から引くとテーブルの上に置くと順にめくって行った。
「分かったわ」
 紗璃はそう言うと大きく息をつく。
「明日の朝、7時12分、必ず彼女に告白すること」
「か、かなり具体的な時間指定ですね」
「この告白はね、タイミングが大事なのよ。あなたがその娘と会うタイミングの中で最高のポイントを選んだ。その以外の時間では絶対駄目だから! でないと不幸な結果になるわよ」
「それってフラられるってこと?」
「それどころか、もっと怖いことに……」
 紗璃は隠し持っていた懐中電灯で下から顔を照らした。
「い、いつもそんな事してるんですか?」
「い、いやちょっと演出を……とにかく!」
 紗璃は、がらりと変って真剣な表情で啓太を見つめた。
「これは大事な忠告よ」
 その表情と言葉に、ごくりと唾を飲み込む啓太だった。
「わ、わかりました」
「くどいようだけど言われた時間は絶対守ってね。遅すぎても駄目。早すぎでも駄目。ピッタリ7時12分」
「はい」
「よし! 後はがんばれよ、少年!」
 紗璃は思い切り啓太の背中を叩いた。


 
 

真夜中の占い館で散歩③

3、時間です

 次の日――

 啓太は携帯電話のディスプレイで時間を見た。
 これで、今朝もう27回目。

 7時8分……もう少し。

 昨日、あの占い師の言われた事をする為、啓太はいつもより三十分ほど早く家から出てここにいた。
 あの不思議なカードの動きと紗璃という占い師の言葉には何か説得力があったが、それでも今だ半信半疑という奴だ。啓太は迷いながらも時間を待った。
 その時だ!
 遠くに見覚えのある姿が見える。

 あ、相葉さん!

 長めの黒髪が目立つ少女だった。
 クラスは違ったが体育の合同授業で見かけて以来、啓太の心の中を大きく占める様になっていった。告白の方法が思いつかなくて結局、頼ったのは昨日の占い館。そして今、啓太はここにいる。

 何してるんだ? おれ。

 深呼吸して気持ちを落ち着かせる。まるでスターティンググリッドに並んだレーサーの気分だ。 オリンピックの選手なんかもスタートラインではこんな気分なのだろうか? そんな事を思いながら啓太は28回目の携帯電話のディスプレイを見た。

 7時11分……

 その表示を見て啓太の心臓は鼓動が激しくなっていくく。

(いい? 遅すぎても駄目。早すぎても駄目)

 紗璃という占い師の言葉を思い出した啓太はフライングしようとする足を辛うじて踏んばった。
 目の前を相葉いずみが通り過ぎていく。
 綺麗な黒髪が風に煽られふわりと上がるのに啓太は少し見とれた。

 あっ! そんな場合じゃない!

 ジャスト7時12分! 啓太、GOだ!(自分に言い聞かせてる)GO! GO!

 その時、相葉いずみは、信号のない横断歩道の前に差し掛かっていた。
 啓太は、いずみの方に向うと思い切って声をかけた。

「あの、相葉さん!」

 緊張していたせいか思いのほかに大声になってしまう。

「え?」

 呼びかけたその声に少し驚いたように足を止めたいずみは、啓太に振り向いた。
「あ、あの……!」
 直後、振り向いたいずみの背後を信号無視したトラックが猛スピードで通り過ぎていった。
 ディーゼルの排気ガスと埃が風に巻き上げられいずみの黒い髪を煽っていた。
「えっ?」
 二人は、通り過ぎる暴走トラックを見送りながら呆然としていた。声をかけるタイミングが遅ければ、いずみは確実にトラックに跳ねられていた筈だった。
 汚れた風が収まるころ、通り過ぎるトラックを唖然として見つめるていたいずみは啓太の方を見た。
「あ、ありがとう」
 いずみは呆然としながらも啓太に礼を言った。
「ど、どういたしまして」
 まぬけな返事を返す啓太は、今まで振り向きもしなかったいずみが自分を見ている事に信じられない思いでいた。
 今の啓太はそれだけで、しあわせだった。
(ありがとう。ブルース・リー)
 何故か啓太はそう思っていた。



 その異変は、啓太たちから少し離れた場所で起きていた。
 電柱の傍では黒い靄の様なモノが何処からか湧き立っている。風にも流れないその黒い靄は人の形にも見えた。
 霧の様なモノの頭らしい部分が、いずみと啓太をじっと見つめていた。
 じっと……


 
 

真夜中の占い館で散歩④

4、もう一度

 数日後――
 ゲームセンターの片隅に設けられた場違いな小さなテント占い館"紗璃"。
 再び啓太はその場所に来ていた。

「いらっしゃいま……あら? いつかの彼じゃない?」
 テントの中では紗璃がカップ麺(塩味)の蓋を開けるところだった。
「よく食べてますよね。そなに好きなんですか? カップ麺」
「そ、育ち盛りなのよ」
 顔を赤くしてカップ麺をテーブルの下に隠す紗璃だった。
「どう? 上手くいった?」
「ええ、まあ……」
 啓太の後ろから、相葉いずみが顔を出して軽く会釈した。
「あら? 占いで出たとおりの感じのコよね。ここに一緒にいるって事は成功みたいだったようね」
 茶化しながら迎える紗璃だったが二人の表情は深刻そうだった。紗璃はそれを察していた。
「ん? 何か冴えない顔ね。何かあったん?」
 啓太は深刻そうな顔で口を開いた。
「今日は、この相葉さんを占って欲しいんですけど」
 紗璃はその怯えた様な態度を不審に思いながらも二人を椅子に座らせた。
「何があったの?」
 いずみは、啓太と顔を見合わせた後、経緯を語りだした。
「あの朝、啓太くんに声をかけてもらって事故に合わなかったんですけど」
 片思いの啓太に告白のタイミングをアドバイスした事だ。
「うんうん。あれね。ドラマチックだったでしょ? なんか韓流っぽくない?」
 紗璃は相槌を打ちながら言った。なにしろあれは紗璃の占いで救えた事だ。
「本当に助かりました。でも、あれから危ない事が続くんです」
「危ない事?」
「はい。事故に巻き込まれそうになったり、工事中のビルから何かが落ちてきたりとか、階段を降りていたら手すりがいきなり壊れたり、変なおじさんにつきまとわれたりと……いろいろ」
「マジで? でも……最後のは、危なさの種類が違うわね」
「ちなみにそれは警察に通報して解決しました」
 啓太が口を挟む。
「でもあまりにも命に関わりそうな事が多くて。だから、紗璃さんに運勢を見てもらおうって僕が言ったんです。ほら、紗璃さんってなんかスゴイから」
「いや、すごいだなんて……ところで少年さぁ」
 紗璃は啓太の耳を引っぱり自分のところへ引き寄せた。
「痛てて、なんですか?」
「あんた、ちゃんと、このコに告白ったの?」
 紗璃は、いずみに聞き取れないような小さな声でそう言う。
「え? 告白って……いや、それがそのぉ……」
「じゃあ、実は特に進展なしって事なの? おい?」
「い、いえ、進展がないってわけじゃ……仲良くはなれたんですよ? ずっと親近感出て。けど、なんかその後、言い出しにくくて」
「あちゃぁ……だからか」
 紗璃は片手でおでこを押さえた。
「何か知ってるんですか? 紗璃さん」
「いや、はっきりとは。けれど大体想像はつく。今からそれを確かめましょ?」
 紗璃はカードを取り出すとテーブルの上に円を描くように広げた。
「さ、彼女。一枚ずつ取って左から順に並べて」
 言われたとおり、いずみはカードを取って並べ始める。
 全てを並べ終えた後、紗璃は言った。
「やっぱりね」
「何ですか?」
 いずみは、不安そうな顔で紗璃を見た。
 ため息をついて紗璃は話し始める。
「いずみさん。あなたは本来は事故で命を落とすところだったの。それをこのガキ……いや啓太くんが止めたのよ。けれど、運命は急な変化に対して拒絶反応を示した。そして軌道修正を行なう為に"ある現象"が発生したってわけよ」
「なんかよく分らないけど、ある現象って?」
「形容はいろいろだけど、一番合っている言い方は……」
 真剣な紗璃の顔に、いずみと啓太は息をのむ。
「死神」
 紗璃は、真顔でそう言った。
「はい?」
「いや、だから死神」
「またまた」
「本当だって!」
「ま、まじですか? でも死神って?」
 眉を顰めて紗璃を見る啓太。
「何? その目。その言い方が一番、分かりやすいのよ。だってイメージ沸き易いでしょ?」
 啓太といずみは顔を見合す。
「人の体は傷口を修復しようとしてあらゆる手段を講じる。自然もそう。すべての事柄はバランスを保とうとする行為であり現象。これを理解できれば地上に起きる多くの事は理解できるって事よ」
「そんな難しい事はいいですよ」
「あら? だから子供って嫌なのよ。人の話は聞かないし自分本位だし、もう!」
 紗璃は小声でぶつぶつ文句を言った。
「ごめんなさい。紗璃さん。でもぶっ飛んだ事言い出すから」
「つまり物事には理由があるって事よ。いずみちゃんに降りかかるわざとらしいほど不自然な悪運の理由はね、死ぬ筈だったいずみちゃんが生きてるって事なのよ」
 いずみは、その言葉を聞いて唖然とする。
「死ぬはずだったんですか? 私……」
「あっいや……死なないにしても生死に関わることが起きたはずだったわ。死に関わる事は、その人の人生において重大な事ですもの」
「なにか、その死神から逃れる手はあるんですか? このままじゃ相葉さんが」
「啓太君……」
 自分の事の様に必死に食い下がる啓太にいずみの方が少し驚いていた。
「うーん、ない事もないわよ」
 深刻になった二人に紗璃は驚くほど涼しい顔でそう言った。
「本当ですか!」
「でもなあ……」
「何ですか? 追加料金ですか? お金だったら貯金を下ろして来たし」
「ああ、いや、そうじゃなくて。この事には、いずみちゃんを大事に思う誰かの協力が欠かせないのよ。でも君、ちょっと頼りなさそうだからさあ」
「そんなことないです!」
 声を荒げる啓太に隣りに座っていたいずみが驚く。
「啓太くん……」
 紗璃は、そんな啓太を見てにやりと笑った。
「そう? ならやってみる? うまくいけば、いずみちゃんを救えるかも」
「お願いします! 紗璃さん。ぼく何でもやります!」
「じゃあ、今夜2時にもう一度ここに来てみ」
 そう言って紗璃は、片目を瞑って見せた。

 
 

真夜中の占い館で散歩⑤

5、真夜中の占い館

 その夜、言われたとおり啓太といずみは、再びゲームセンターに来ていた。
 オーナーに話をつけておくからと言った紗璃の言うとおりにドアの鍵は掛かってなく簡単に入ることができた。
 ライトを照らして暗いゲームセンターの中を歩く二人。
「紗璃さん?」
 暗闇の中に呼びかけたが何も返事は返ってこなかった。
「まだ来てないみたいだね、紗璃さん」
「啓太くん」
「ん?」
「ごめん、私の為に」
「いや、そんな」
「啓太君は私の命の恩人よ。それに、こんなことまで付き合ってくれて」
「違うよ。むしろ謝るのは俺の方だよ。俺がちゃんとしてないから相葉さんをこんな目にあわせてるんだって」
「あの時、声をかけてくれなけれは私は死んでたんだよ?」
 確かにそうだ。しかしそれはすべて紗璃の占いの言葉どおりにした事だ。
「だけど、なんで紗璃さんが私の事故の事を占えたのかしら……」
「え? 」
「啓太くん、どんな占いを頼んだの?」
「いや、それは、あの……」
 頼んだのは、いずみとの事だったが、それは言えなかった。大体、そのせいで死神なんてのも呼び出してしまっているのだ。もし、ちゃんと告白すれば運命は完全に修正できたはずなのだ。そうすれば、いずみが死神という得体の知れないものに狙われなくても済んだ。それを思うと啓太には全てを言う事ができなかた。
「それより、死神をなんとかしないとね、相葉さん」
 啓太は話をそらした。
「あれはね……あれは、なんか分かるの」
「あれって? 死神の事?」
 いずみは黙って頷いた。
「何、どういうこと?」
「だって私……私は」
 その時、闇の中から音がした。
「静かに」
 啓太は音の方に向けてライトを照らした。しかし、照らした先には何もない。
「今、何か動いた様な気がした」
「やだ」
 いずみが怯えて啓太の後ろに隠れる。
 しかし、その背後にぼんやりと黒い霧が現れているのに二人は気付いていなかった。


(いずみ……)


 かすかに耳元で声がした気がして、思わず振り向く、いずみ。
「誰?」
 辺りを見渡すいずみの背後から手の様なものが伸びていた。それに気づき振り向こうとした時、その手の様なものは突然、いずみの手首を掴んだ。
「え?」
 手の様なものは、いずみをものすごい力で闇の中に引っ張りこもうとしていた! その強さに、いずみは抵抗する事ができない。突然の恐怖にいずみは叫び声を上げた。
「きゃあああ!」
 叫び声に啓太が振り向くといずみの身体が闇の中に引きずり込まれいくのが見えた。その背後には何かがいる!
「相葉さん!」
 啓太は闇に引きずり込まれていく、いずみに手を伸ばした。しかしその手は、いずみに届かなかった。
「どうなってんだよ! くそっ!」
 咄嗟にライトを照らしてみたがそこには電源の切れたゲーム台が並んでいるだけでだ。
 足音が聞こえてきた。啓太は焦って振り向いた。暗闇の中に微かに人影が見える。
「わあぁ!」
 啓太は、驚きで声をあげた。
「ちょっと、びっくりするじゃない」
 そこにいたのは紗璃だった。
「紗璃さん……ですか?」
「ごめん。啓太くん。ちょっと用事が長引いちゃってさ」
「用事ってどうせカップ麺でも食ってたんでしょ?」
「えっ! 何で知ってるの?」
「本当にそうだったんだ……い、いや、それより、いずみちゃんが!」
 啓太は、さっき起きた事を説明した。
「何ぃ~っ! 何してんの! 少年!」
「ごめんなさい! でも紗璃さんだって遅刻したじゃないですかぁ」
「まったく、もう~っ!
 紗理はポケットからカードを取り出した。
「おい、少年!」
「は、はい」
「その下を照らして!」
「はい」
 指差した床に光が照らされると、そこに紗璃はしゃがみこんでカードを十字に並べ始めた。
「何してるんですか?」
「これはね、探し物を占っているのよ。この場合、いずみちゃんだけどね……えーと、どこだどこだぁ」
 心配そうにそれを覗き込む啓太。
「よし! これだ!」
 スペードのクイーンを引きあてると紗璃は立ち上がると上を指差した。
「屋上よ。奴はいずみちゃんを屋上に連れて行ったわ」
「奴って、例の死神?」
「他に誰がいるのよ! きっと奴は彼女をビルの上から突き落とす気よ! 追って!」
「でも……俺……」
 啓太は階段に向うのを躊躇した。何しろこの先にいるのは得体の知れない化け物だ。苛立った紗璃がいきなり大声を上げる。
「こら! 啓太! 」
「は、はい!」
「あんた、いずみちゃんがどうなってもいいの?」
「い、いえ」
「このままだと、いずみちゃんは本当に死神に命を奪われちゃうわよ!」
「そ、そんなぁ」
 その言葉に啓太の表情が変った。
「そんなことは、絶対させません!」
 紗璃の言葉で意を決した啓太は階段に向った。
 その後姿を見送る紗璃。
「うん! よく言った! 少年。必ず助けるのよ……クソッタレな結末は自分で蹴飛ばさなきゃ」

 
 

真夜中の占い館で散歩⑥

6、運命なんて

 啓太は息を切らしながら屋上のドアを開けた。
「相葉さん!」
 屋上のフェンスの傍には、いずみが立っていた。
 啓太の声に一度振り向いたが、何も興味がないように再びそっぽを向ける。
 その瞬間、フェンスが吹き飛んだ。破片が空中に飛び散った後、落下していく。
 何も無くなったフェンスの跡にいずみは一歩踏み出していく。
「相葉さん! やめろ! やめろってんだ!」
 いずみは近づく啓太の方に振り向いた。
「相葉さ……ん?」
 啓太はその顔を見てぞっとして立ち止まった。
 温和そうないずみの面影はどこにもない。肌は死んだように青白く、瞳の色は灰色に澱んでいた。屋上の風に煽られる黒髪も黒い別の何かに見える。
『なぜ、止める?』
 いずみとは思えない声が発せられた。地の底から響く声とはまさにこんな感じだろう。いずみは啓太を無気味な上目遣いで睨みつける。
「おまえ……相葉さんじゃないな?」
 いずみの様なものがにやりと笑う。
『どうにも逆らうので、いずみの身体に入り込ませてもらった。このほうが仕事がしやすい』
「仕事って?」
『いずみの死』
 いずみの様なものは、あっさりとそう言った。
「やめろ! 相葉さんは生き残ったんだ! もう事故死は間逃れてるんだよ」
『だから"修正"する』
「やめてくれよ。頼むから相葉さんを殺さないでくれよ」
 懇願する啓太を見ると、いずみは首をかしげた。
『なぜ? 死はいずみの望む事なのに』
「相葉さんが? 嘘いうな!」
『俺はいずみをずっと見てきてるから知っている。いずみは生きる事が辛いんだ』
「お前がそそのかしてるだけだ。いずみさんの身体から離れろ!」
 死神に憑かれたいずみは人差し指を立てて左右に振る。
『わかってないな。ほんの数日前からいずみの人生に立ち入ってきたお前が何を知ってるというんだ? 知っている
のか? いずみの苦しみを! 悲しみを! 憎しみを!』
 いずみの様なモノは異様な迫力でそう言った。啓太は少し恐ろしくなっていく。
「ど、どういう事なんだよ」
『本人の口から聞け……』
 いずみの顔が一瞬、いつのも感じに戻っていた。
「啓太くん?」
「相葉さん! 大丈夫!」
 どうやら身体の自由を死神から戻されたらしい。 声もいつものとおりだ。
「ごめん、啓太くん。私、言ってない事が色々あるんだ。私、本当は、あの時、死にたかった」
「なんで? 」
「すごく孤独だったのよ。私なんか誰も見てないと思ってた。いなくなったって誰も悲しまないだろうって」
「そんなこと、そんなことないって」
 啓太は涙声で言う。
「啓太くんと知り合えてよかっ……」
 何かを言いかけたいずみの手首を啓太ががっしりと掴んだ。
 驚いた顔で啓太を見るいずみ。
「絶対、相葉さんは、死なせない! 絶対!」
 啓太の目は真剣だった。その手の暖かさはいずみにも伝わっていく。
「啓太くん……」
 だが次の瞬間、再びいずみは豹変した!
『分かったろ? 小僧。運命は変えれない。いずみが死を望んだ時に生まれたルートはそのままだ。それは、いずみの運命さ。他人のお前に邪魔はできはしないんだよ』
 死神が再びいずみの意識を乗っ取っていた。身体がビルの下に飛び降りようとする。
「このやろう!」
 それを阻止しようと啓太は力いっぱい踏んばった。
「絶対、いやだ!」
 啓太の身体がじわりじわりと引きずられていく。
「なろーっ!」
 いずみの手を掴む啓太は必死の形相だ。
「啓太……くん?」
 いずみの意識が戻った。しかし二人の身体は屋上から落ちる寸前だった。
「ちくしょう!」
 啓太があきらめかけたその時だった。襟首を誰かが掴む。
「ちょ、ちょっと、あんた重いわよ」
「紗璃さん!」
 紗璃は片目を瞑ってみせると啓太の身体を引っぱった。いずみの身体も一緒に戻されていく。引っくり返った啓太の上にいずみが倒れてきた。
「うがっ!」
「ごめん! 啓太君」
 いずみが慌てて啓太の身体からどいた。
「元に戻ったんだね。いずみさん。よかった」
 心配そうに見つめるいずみを見て啓太は、ほっとした。
「がんばったね、少年」
 啓太の頭を紗璃が撫でる。
「さて、こっちも片付けなくっちゃね」
 紗璃が背後の宙を睨みつけた。
 その先には、蜃気楼の様に揺れる中では黒い靄が浮いていた。
「あれが死神ですか?」
 啓太といずみが不気味に浮かぶ黒い霧を見て怯える。
「大丈夫。恐れる事なんてないわ。いずみちゃんの死の運命を取り消した今、あいつの力は半分も無いもの」
「でも、まだそこにいるし」
 紗璃はにやりと笑った。
「少年、ババ抜きって好き?」
「はぁ?」
 黒い靄は三人の周りを回り始めた。
『お前、只の人間ではないな。何者だ?』
「ただのしがない占い師」
『うらないし? 』
「あんた、さっき、いずみちゃんの運命に少年が口出しできないみたいな事を言ったわね」
『その通りだ。死の運命は変えられない』
「違うわ! この少年は、今、いずみちゃんの心に深く入り込んでる。少年の心にもいずみちゃんの事がしっかりとある。わかる? 新しい運命の分岐点ができたのよ。二人で進むって運命の道がね」
『何を言ってるんだ! おまえは』
 黒い霧の声が動揺していた。
「"死の運命"である"あんた"という道は途切れた。その証拠にあんたの身体は急激に弱っている筈」
『うぐ……おまえは、強引に運命を変えたというのか? だが俺だけでは消滅はしないぞ。お前等も道連れだ』
「悪あがきね。しかもたちが悪い」
 黒い靄は紗璃に飛びかかった。
 紗璃はカードを飛ばした。53枚のカードは綺麗な円を空中に描いていく。
 円の中に飛び込んでいった黒い靄はシールドと化したカードの群れに阻まれ弾き返された。
 恐ろしい奇声が響き渡ったるのと同時に空中に放電が起こりカードが飛び散っていく。
 宙に舞うカードの中から紗璃は一枚を掴んだ。
「さあ、これがあんたの運勢よ」
 紗璃がカードの裏を返すとそこにはジョーカーの絵が描かれていた。
 黒い靄が紗璃の持ったカードの中に吸い込まれていく。必死に抵抗するがそれも空しく黒い霧の全てはジョーカーのカードに飲み込まれていった。
「はい! 一丁上がり」
 啓太といずみは不思議そうな顔をしてジョーカーのカードを見つめた。
「どうなってるんですか?」
「ジョーカーはワイルドカード。つまりなんでもありなのよ」
 紗璃は、そう言うとカードを指で弾いた。するとカードは、あっという間に燃え上がり灰になってしまった。
 その様子を啓太といずみは呆然と見つめるだけだった。

 
 

真夜中の占い館で散歩⑦

7、終わりよければ

 数日後、啓太といずみはゲームセンターに来ていた。
 占い館"紗璃"のテントの幕を上げると中に入った。
「いらっしゃい……あん? なんだ、少年たちか」
 啓太といずみは手をつなぎながらテーブルの前に立つ。
 ああ、進展したんだぁ……と思いながら二人の様子を窺う紗璃。
「この間は本当にありがとうございました」
 膝におでこがくっつくくらいに頭を下げる啓太といずみ。
「ええ? いいって、いいって。なんか照れくさいからよしてよ」
 紗璃は、鼻の頭を掻く。
「それより上手くいってんの? ふたりは」
「え? まあ……えへへ」
 啓太といずみは顔を見合すとにこりと笑いあった。
 その様子を見て紗璃は肩をすくめる。
「死神だったらもう大丈夫よ。少年たちが二人で新しい別の未来のルートを作ったの。死の運命が消えた今、もう死神が現れる事はないよ」
 そう言って紗璃は握り合う啓太といずみの手を指差した。顔を赤くしながら慌てて手を離すふたりに紗璃が笑う。
「ということで、これで私も心置きなく次の街に行けるってものね」
「え? 紗璃さん、行っちゃうんですか?」
 驚く、啓太といずみ。
「私もまだ占ってもらいたい事があったのに」
 いずみと啓太は残念そうな顔で紗璃を見た。
「うん、他の街の遊園地の中で占い小屋開けることになったのね。人も多いから、ここより稼げそう」
 そう言って紗璃は、にやりとする。
「あの……」
「ん?」
「ありがとうございました。今日は俺ら、お礼に来たんです。これもらってください」
「二人で紗璃さんの喜びそうな物って考えたんです」
 そう言って啓太といずみは、二人でひとつの紙袋を差し出した。
「きゃー! プレゼント! いや、そんな気をつかわなくたっていいのにぃ……でも、あらそう? いや、悪いわね」
 紗璃は、にやけながら袋を受け取った。
「じゃあ、紗璃さん。お元気で」
「うん、少年たちもね」
 啓太といずみは仲が良くテントから出て行った。
「もう、見せつけちゃってぇ……さてさて、あの子らの贈り物は?」
 紗璃は袋の中身を覗きこむ。
「あっ……」
 中は何種類かのカップ麺が入っていた。
「別に好きだってワケじゃないっつーの! たまたま食べてただけだって!」
 紗璃はテーブルの上に袋を放り投げるとため息をついた。
「あーあ、プレゼントがカップ麺なんて」
 ひとり、文句を言う紗璃だったが、その顔には笑みが浮かんでいた。

「ふふ、だから子供ってやつは……」




『真夜中の占い館で散歩』 おわり
 
 
 

 

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